意外と役に立たないバージニア?・1
戻ったエミリーさんの部屋はこの短時間に様変わりしていた。
華美ではないものの質の良い調度品が目につく部屋だったのに、ごく普通の家具しかない部屋に変わっていた。
「急な模様替えをしたのかな? 前回訪ねてからそう日は経っていないけれど」
部屋の中央で私達を待っていたブレンダン殿下が誰にともなく尋ね、バージニアが応じた。
「模様替えと言えばそうでしょうけれど、先ほどお茶を頂いたあとあの短時間でなし得るとは思えませんわ」
つまり、エミリーさんが消えたことと連動しているのだと、婉曲に伝える。
殿下が私を見、すぐ後ろのケント伯をじっと見つめた。
「ケントは残ったのか……」
それは「エミリーは消えたのに、なぜケント伯が消えていない」と言っているのか。
私は確信を持ちつつ、ブレンダン殿下に話しかけた。
「殿下はエミリー・トラバスを覚えていらっしゃいますか」
「今、胸に矢を命中させた相手だ」
さらりと言われた率直な言葉に「うっ」となるが、私は助けられた側。文句を言うのはおかしい。
声をつまらせた私をよそに、ケント伯が落ち着いて報告を始める。
「ミナミ嬢の奇妙な質問には理由があります。――にわかには信じ難いと存じますが、私の部下は『祈りの司祭』という呼び名を『聞いたことがない』と発言しました。司祭エミリー・トラバスの存在自体が消滅したとしか考えられません」
ええ、その通りです。私は首肯した。伯が続ける。
「共にいた者に狩猟訓練の解散式は任せ、私がこちらへ残りました。次のご指示を」
殿下の腰にもケント伯の腰にも剣がある。儀式の折でもなければ目にしない剣は、実用品なのだと思い知らされる。
「ひとまず、今ここにいる四人は祈りの司祭エミリー・トラバスの記憶を留めている、という認識でいいかな?」
ブレンダン殿下の言葉に全員が頷く。殿下の理解がお早いのは、経験済みであるからだ。アリス・ウォルターで。
「『祈りの司祭。それは誰?』という者もいるのだね?」
「はい」
少し考えてブレンダン殿下が指示する。
「では、ケント。どのくらいの人がエミリー・トラバスを覚えているかを知りたい。範囲はまず教会関係者に限ろう」
「承知しました」
すぐに行こうとするケント伯を引き止めた殿下が思案顔になる。
「今夜はケントの屋敷に泊めてくれないか」
「うちですか」
聞き返すケント伯は、今まで見た中で一番驚いた顔をしていた。




