急展開・1
気がつくと、部屋にいるのは私ひとりだった。
祈りの司祭と呼ばれるエミリー・トラバスさんと面会を取り付け、教会内の彼女の私室で会うことになった。
案内されながら、以前に庭において感じた視線はこの階、つまりエミリーさんの部屋からだったのではないかと思い当たった。
お茶を淹れてくれた女性がさがる。バージニアと私は応接テーブルを挟んでエミリーさんと向かい合わせに腰掛けた。
ご挨拶の時から注意深く聞いても、ベール越しの女声に聞き覚えがあると言い切ることは、私には難しい。
最後に話したのはかなり昔のことで、転生して長い。覚えていなくても仕方がないと言い訳などする。
当たり障りのない会話にならずに済んだのは、ひとえにバージニアの話題選びによるもの。
「異なる文化圏から参りましたので、失礼はお許しくださいましね。司祭様のお力をもって毒の発生範囲が限られていると伺っておりますが、それは真でございましょうかしら」
私が聞いたら角の立ちそうな質問も、不思議なことにバージニアならふわっとした印象になる。
「私の力は強大なものではありません。なんとか抑えているようなものです」
エミリーさんは謙遜なさった。
「異世界より人を招くよう進言なさったのは司祭様、と聞きました」
「私の力は『祈りの力』とされています。国の安寧を一心に願ううちに心に浮かびました。『私の力では元の状態に戻せない。能力のある方にお力をお借りすることがこの国の為になる』と。それで古式に則りお招きした次第です」
あの頃のエミリーさんを思えば、発言は別人のように理路整然としている。でもあれから十年も経っている、当然と言えば当然か。
私は会話の切れ目を待ち、ふと思いついた風を装い話しかけた。
「ベール、暑いでしょうし大変ではありませんか。私達だけなので、司祭さまがよろしければお取りくださっても……」
まさか「顔が見たい」とそのままは言えない。
「慣れれば気にならないものです。取り払うのは憂いが晴れた時と決めておりますので」
私の提案は即座に退けられた。
あとは何を話していたのだったか。次第に考えがまとまらなくなり、バージニアとエミリーさんの会話が遠いものになった。
これは……高校時代、午後一番の日本史の授業くらい眠い。いや、生物の授業も負けず劣らず眠かった。そう思ったのは覚えている。




