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急展開の予兆

 遠征までの少ない日数のなかブレンダン殿下の提言により、遠征隊に猟師が加わることとなった。


 ブレンダン殿下をはじめとしてケント伯、ライリーさんは、遠征隊員達の技量を上げるための獣対策訓練に出掛ける。その間、私とバージニアは留守番だ。


「俺達の留守の間、身辺には充分に気を配ってくれ」


真顔で言うケント伯に、つい笑ってしまった。


「聖女の勝負運を狙いそうな方は、みんな狩りに行かれますよね。留守番はこの上なく安全だと思います」



 そうでなくても、隊長ケント伯と私がお付き合いしているというのは、衛兵の間では知られたことなので、無茶をする男性は皆無だ。


 私の発言に取り合わず、ケント伯はバージニアに向き合う。


「コール嬢、くれぐれもお気をつけて」

「後のことはお任せください。皆さんこそ、お怪我なくお帰りくださいね」


 訓練で怪我などして遠征に行けなくなっては本末転倒だものね。

心の内でそう思う私とは違い、心から心配している様子のバージニアを見て、ちょっと反省する。



 そう言えば。お出かけ前の慌ただしい時に聞くのも恐縮だけれど。


「祈りの司祭との面会の件は、どうなりましたか」

「それが……ブレンダン殿下が同席を望まれ、日程の調整が必要となった。狩りから戻ってからになる」



少しの間を置いてケント伯が私を正面から見た。


「『聖女には傷ひとつつけることなく、この国に長くいてもらうようお引き留めするように』私は祈りの司祭にそう言われた。聖女について、司祭には思うところがあるのではないかと一部で囁かれているが、私の知る限り深い関心を寄せておられた」


 慎重に感じるのは、内容を選んでいるのか、それとも言葉を選んでいるのか。


「此度の毒霧撲滅の遠征は、教会にとっても祈りの司祭にとっても重要な節目になると理解している。面会は出発前に叶うだろう」


「ありがとうございます。お気をつけてお出掛けください」


 そんなやり取りを交わして、ケント伯は泊まりがけの狩猟訓練へとお出かけになった。








 五日後、祈りの司祭からの言伝があった。

本日の午後で良ければ時間が取れる、というもの。


「どうしましょう、バージニア」

「ミナミはどうしたいの?」


 元々、ケント伯もいないところで話したいと思っていたくらいだ。


「この機会を逃すと、当たり障りのない会話しかできないんじゃないかと」


 本音を口にした私に「気持ちは決まっているのね」とバージニアは頷いた。


「それなら、ふたりで伺いましょう」


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