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出会い 編入生エミリーと殿下・1

過去のお話です。

(今現在、祈りの司祭エミリーは、聖女ミナミがかつての同級生アリスだとは知りません)


 王都の学校に編入した際、「彼女を見習えば間違いはない」と引き合わされたアリス・ウォルターについてエミリーが思ったのは「この程度でお嬢様なんだ」だった。


 教育係と聞いたから格別素晴らしいかと構えていのに、クラスいち美しいわけでも図抜けて勉強ができるわけでもないらしい。要は「先生のお気に入り」それだけだ。


 けれど侯爵令嬢になる為には最低でも彼女のレベルが必要らしい、とは理解した。面白くなくても従うしかない。



 アリス・ウォルターは帰り際に姿を消すことがある。気になっても、行き先が分からなかった。


 そんなある日、前は確かにこちらへ行ったはずだったと見定めた辺りの扉をひとつひとつ触っていくと、保管室と書かれた部屋の鍵が掛けられておらず、抵抗なく開いた。


室内にいたのは、思いもよらないブレンダン殿下だった。



 一学年上の王子は驚きを一瞬にして消し、エミリーに柔和な顔を向ける。


「迷子かな、ここは生徒の来るところではないよ」


初めて聞く声は、知っているどの男の人とも違った。


「すみません! 私ったら、いきなり開けてしまって。アリスさんを探していて」


無言なのは、名前では誰だか分からなかったせいか。


「アリス・ウォルターさんです。私の教育係をしてくださっている。あ、私は編入生のエミリー・トラバスです」

「教育係のウォルター嬢に用事があって探すうちに、ここまで来てしまった?」


分かってくれて良かった。


「そうなんです。放課後にいなくなるコトがあるので、気になって」

「ここへは来ていない」



ブレンダン殿下が扉に近寄り、開け放った。


「トラバス嬢、扉を閉めるのは癖だろうが、異性とふたりきりになる時は無用の誤解を避ける為に開けておくものだ。それは女性を守るマナーでもある」


 言うことは同じでも教育係から聞くのとは大違い。私のためを思って言ってくださるのが伝わってきて、嬉しくなる。

エミリーは胸の前で指先を組んだ。


「殿下となら誤解されても平気です。でも、ご親切に教えてくださってありがとうございます」


 微笑した殿下はドアノブに手をかけたまま。まさか「出て行って」のはずはないから「一緒に帰ろう」だろうか。

 でもせっかくだから、もっと話したいとエミリーは思った。



「私、知らないことばかりで、皆さんにご迷惑をおかけして……悩んでいるんです」


言って睫毛を伏せた。


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