初めまして、ケント伯
バージニア・コール→日本名・藤堂櫻
ミナミ・ミソカイチ→日本名・水野ほのか、かつての名はアリス・ウォルター。
庭で話していたバージニアと私ミナミ・ミソカイチの前に姿を見せたのは、男性ばかりの帯剣した一団だった。
敵意はないと知らしめるように、バージニアが笑みを浮かべる。十代の可憐さはまるでなく、政治家っぽく感じるのは、彼女の前職が理事長先生だと私が知っているせいか。
敬わなければならない雰囲気があたりを支配する。
「お迎えありがとうございます。わたくしはバージニア・コール、お隣はミナミ・ミソカイチ。皆様のお手伝いをする為に遣わされました。以後お見知りおきを」
お辞儀は和風。幼稚園で藤堂先生に習ったので、私のタイミングもぴったりだ。
一団の後ろから、ひときわ体格のよい男性が靴音も高く先頭に出た。周囲の譲る様子から見ても、なかで一番高い地位にあると分かる。
「そのように見事な名乗りを頂いては、こちらも名乗らねばな。セナ・ケントだ。あなた方を歓迎する」
年の頃は二十代なかば。すっきりと整えられた髪、意思の強さを感じさせる眉、彫りの深い顔立ち。そして服装と腰の剣。
どこをとっても日本ではなく、私がアリスだった頃の世界に酷似していた。
「私達をお呼びになったのは、ケント卿という認識でよろしいのかしら」
「伯爵だ」
「失礼、ケント伯」
威圧的な物言いにバージニアは圧されるでもなく、和やかに言い直す。
で、呼んだのはあなた? と、無言で心持ち顎を上げ会話の先を促す。
「古式に則りお招きしたのは聖教会。私はあなた方の案内と警護を任されている。共に来ていただこう」
案内と警護、それに見張りもね。パリコレのモデルが出来そうな――中性的ではなく男性的なほう――ケント伯の発言に私は心の内でそう付け加えた。
ケント伯に連れられて、森かと思った広い庭を歩いて着いたのが、私が昔アリス・ウォルターだった頃に家族と住んでいた屋敷だったことには、本当に驚いた。
バージニアだけと話しこちらには目もくれないケント伯に部下らしき男性達もならって、私に注目する人はひとりもいなかったので、誰にも不審に思われずに済んだのは幸い。
気を落ち着けてよく見れば、入ってすぐのホールの壁にある肖像画は私の知らない人物だった。
アリスだった頃の世界とは、やはりどこか違う。既視感と違和感がせめぎ合う感覚は、今までに感じたことのないとても奇妙なもの。
ひとまず「アリス・ウォルターだった過去」は、誰にも黙っておこうと決めた。