舞踏会でトラブル? 頼りになるのは誰・ 5
ソマーズ侯の姿が視界から消えると、ケント伯が私に向き直った。
「さて、一曲お相手願おう」
「どうして?」
舞踏会だから踊るのは当然だろうけれど、ダンスに難アリの私は気がすすまない。往生際悪く粘った。
「楽しんでいないと思われる」
大真面目に答えるケント伯。お断りする正統な理由もなければ、踊らないことで「何かしら不満があるのでは」と主催者に思われるのも気になる、小心な私としては。
さんざん渋ってから「一曲でいいんですよね?」と、ケント伯の手を取った。
残念ながら、子供の頃に憧れていた舞踏会を楽しむ余裕はない。ご令嬢方は誘い誘われ、踊りながら婚活までなさっているのだ。率直に言って驚嘆に値する。
踊る方が多くて少し暑い。額がうっすら汗ばんでいるのではないかと気にしつつ、ケント伯の靴を踏まないことだけに集中していると、不意に首周りが楽になった。
不思議に思ううちに、前身頃がずるりと下がった。慌ててケント伯の手を握ったまま、胸を押さえた。
ぎょっとした様子の伯が思わずという風に足を止める。下手だからと遠慮し、端っこで踊ってもらっていてよかったと、一瞬のうちにそこまで考えた私は立派なのか、現実逃避か。
「ミナミ嬢、……手を放してもらえないか」
「嫌です」
「しかし……俺の手が胸に」
ケント伯は言いにくそうに指摘するが、今そんなことをしたら。
「ダメです! 手を離したら、服がベロンとなって胸がポロリどころか丸見えです!!」
私の切迫した訴えにケント伯が心底驚いたと、腰に添えられた手からも伝わった。
「リボンが」
ようやく気が付き合点がいった声になる。
おそらくなにかの拍子にリボンがゆるみ解けてしまったのだろう。そのまま踊るうちに、胸の部分が布の重みでずり落ちたのだ。
首の後ろは当然固結びにしてから蝶々結びにしてあるものだ、と思っていた。結んでくれたメイドに確かめなかった自分に、ほぞをかむ思いになる。
幸いなのはまだ誰にも気が付かれていない事と「あわや大惨事」となる前に防げたこと――胸にあたっているのは私の手ではなくケント伯の手だけれど。
「ミナミ嬢。結び直そうにも手を放してくれなければ」
「絶対にイヤだしダメです」
私は子供のように拒否した。
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