舞踏会でトラブル? 頼りになるのは誰・ 4
できればカジノにいたことは思い出して欲しくない。ブレンダン殿下も微妙に不快そうにしていたから、好人物ではないのだと思う。
「初めまして」
あくまでも初対面で押しきることにした。
「聖女?」
唇をとがらせて不思議そうに小首をかしげるアグネス様は、私とバージニアについては何もご存知ないらしい。
「異国より参りまして、しばらく王都に滞在しております。以後お見知りおきを」
侯爵令嬢と聖女の立場の上下がわからないので、無難に済ませる。
「伯爵様とは親しくて?」
答える必要があるのだろうか、それ。そうは思っても「ご想像にお任せします」などと思わせぶりにする趣味はない。
「ケント伯は教会の衛兵隊長でいらっしゃいますので、なにかとお世話になっております」
「お世話は、遊びまで?」
食い下がる娘を止めるべき保護者は、ケント伯にお節介めいた忠告をしている。漏れ聞こえる限り、伯は聞き役に徹しているようだ。
助けは期待できそうにない。
「社交は遊びではありません」
気疲れするのが何よりの証拠。マルチタスクをこなす事が求められ、人によってはほぼ仕事だろう。
「夜会は、結婚相手に相応しい方と出会う場だと思うの」
アグネス様の発言はエミリーさんを思わせる。ソマーズ家の家風なのか。
「若いご令嬢なら、そうでしょうね」
「あなたも若いわ」
アグネス様の不躾な視線を真っ向から受け止めて。
「先ほども申し上げましたように、私の滞在は『しばらく』ですので、殿方との出会いは欲しておりません」
「あなた変わってるわね。ね、そのドレス目立ち過ぎだと思われません?」
知りませんよ、そんなこと。ドレスについてのご意見なら、どうぞブレンダン殿下へ。私は選んでないので。
「私はどなたがどのようなドレスを着ていても、ご本人には誉め言葉しか申し上げませんが、この国ではマナーが違うのでしょうか」
一気に言えば、さすがにアグネス様も黙った。
「貴重なご意見をお聞かせくださり、恐縮です」
耳に入ったクレーム対応のきまり文句は、ケント伯の声。口だけ感丸出しなのに、ソマーズ侯は満足した様子なのが驚きだ。
「仕事の邪魔をするものではないな、行こうかアグネス」
「はい、お父様。伯爵様、次は必ず踊ってくださいませ」
父に続いて、アグネスは思わせぶりな目配せを残して、くるりと背中を向けた。
本当に父娘揃って失礼だと腹が立つより感心してしまう。心なしかうんざりした雰囲気のケント伯に同情する。
「お疲れさまです」
この国にはない言い回しと知っていてるけれど、しっくりくるのは「お疲れさま」だと、あえて使った。
ケント伯が無言のまま怪訝な顔をする。
「ごく軽い労いの言葉です。朝から使ってしまうと『まだ疲れてない』ってなりますが、そこはお気になさらず。今は夜ですし」
私の説明に微苦笑が返された。
「ありがとう、疲れたのは確かだ」
さて、ソマーズ侯は今後において重要な人物なのだろうか。




