舞踏会でトラブル? 頼りになるのは誰・ 3
足音高く近づいた男性には、見覚えがある。数日前にカジノでお見かけした――私はご挨拶をしていないので「お会いした」ではなく――ソマーズ侯だった。
「伯爵、ご機嫌よう。ちょうど良かった、娘を紹介しよう」
「娘?」
ケント伯がそのまま聞き返した。いくらソマーズ侯の物言いがざっくばらんだからと言って、失礼ではないかと私のほうがヒヤリとする。
ソマーズ侯の後から、若い女性が現れた。まだ二十歳前だろう可愛らしい大きな瞳が印象的なご令嬢だ。
「初めてお目にかかります。アグネスでございます。お会いできて光栄です、伯爵様」
瞬きもせず見つめる様子はさながらアイドルのよう。そこで不意に思い出した。
聞き覚えのある名だと思ったソマーズは、エミリーさんの後見を務めるお家だった。
当時、エミリーさんに見どころがあれば引き取ると聞いていた。それを、彼女が侯爵家の娘としてやっていけるかどうか見定めるために入学させたのだと、私は解釈していた。
今思えば「見どころ」の意味が違っていたかもしれない。すでに何らかの特異な能力の片鱗を見せていたか、教会で「お告げ」があったとか。
このキラキラした目のお嬢様は、今の私と年齢が近い。娘ならエミリーさんがいるのに、もうひとり?
それともエミリーさんは後見するにとどめて……いや、アグネス様は実子の可能性もある。などと、足りない知識をこね回しても正解は見つからない。
「娘はまだ社交に慣れておりませんので、色々と教えてやっていただきたい。まず一曲お相手など」
「こんな大きな夜会は初めてで、気おくれしてしまって……伯爵様のような立派な方がご一緒くだされば、心強いです、とても」
上目遣いに見上げるあざとカワイイ女子高生――ではなく、アグネス・ソマーズ。
これはケント伯といえども浮かれてしまうだろうと、内心ニマニマしていると。
「まことに残念ですが、本日は護衛として聖女ミナミ様に同行しておりますので」
少しも残念ではなさそうに言ったケント伯が、半歩控えていた私の腕をひいた。人を断る口実にするのは、いかがなものか。しかも今は盾のように使われている。
「こんばんは、ただ今ご紹介に預かりましたミナミです」
急すぎて恐ろしくつまらない挨拶をしてしまった。とりあえず笑顔を保てばいいだろうとばかりに貼り付ける。
バージニアが言っていた。
「疲れたなと思うでしょう? でもこの手の一振り、笑顔のひとつが票に繋がる寄付に繋がる、そう信じて耐えるの」
さすがに町長の妻は違う、素晴らしい心がけだと感銘を受けた私は、こちらへ来てから寄付集めにいそしみながら見習っていた。笑顔は少し空々しいかもしれないが。
ソマーズ侯が思案顔になった。




