舞踏会でトラブル? 頼りになるのは誰・ 1
夕方に王宮から戻ると、みな留守だった。
バージニアは、直轄領から密かに毒の治療に訪れた人々のため、郊外の教会へと今朝出かけたという。数日戻らないので入れ違いだ。
ケント伯はいつものように仕事で不在、明日は夜会に私と共に出席する。
夕食にはまだ間があり、私はアリスだった頃の私室へ足を運んだ。
「移ってもかまわない」と言われたけれど、バージニアと隣合わせは何かと都合がいいので、そのまま客室を使っていた。
何か思い出すよすがになればと思って来てみたものの、試しに開けてみた引き出しは見事に空で、アリスにまつわる物は何もない。
がっかりして手近な椅子に腰掛けた。
「殿下は私のことがお好き?」
ふと呟いて「やだ、乙女みたい」と恥ずかしくなった。
ちょっと再会を喜ばれたくらいで、思い上がりも甚だしい。殿下は私がこの世界から消えた理由を、ご自分が教育係に推薦したせいだと、悔やんでいらした。
長年の自責の念から開放されて気持ちが軽くなり、親しく振る舞ってくださったのだ。
勘違いして浮かれるのはみっともないからね、と自分を諫める。
「私は殿下が好き? ……今も」
アリスだった頃からは月日がたち、恋は盲目、恋に恋する恋子ちゃんではない、と思う。
「二度といなくならないで」と言われた。バージニアは帰らないと明言しているから、一緒に残ってもいいかもしれない。
でも、毒霧問題が解決して殿下がエミリーさんと結婚して、私は平気?
相手がエミリーさんでなくても、いずれはご結婚なさる。そこに自分の顔をはめるほど身の程知らずじゃない。
あちらもこちらも八方塞がりにおもえる夕だった。
「見たことのないドレスだ」
ケント伯はそれだけ言い、黙った。
そうでしょうとも、私も画像以外で見るのは初めてですよ。まさか自分が着る日がくるとは、思いもよりませんでしたからね。
などと思う私は、開き直ってふてぶてしい顔つきなのに違いない。
ホルターネックのドレスは袖がなく、腕と肩が丸出し。前身頃から続くリボンを首の後ろで結ぶ形だ。
背中もかなりの部分がむき出しだけれど、アイボリーにリボンは黒という上品な取り合わせで、いやらしくはない。
ただ、ぐっと胸を張っていないとドレスに負ける。手持ちの下着では見えてしまうので着られないのが、いささか心もとなかった。
私の姿に率直な感想を述べたケント伯に告げる。
「お気に召さなくても、着ないわけにはいきません。殿下よりのいただきものですから」




