ふたりで迎えた朝・1
人の動く感じで、目が覚めた。誰……? 殿下だ。
声をかけずにじっと見ていると視線がぶつかった。
「起きているのかな、それとも目を開いているだけかな」
目を開いているのを起きていると言うんじゃないですか。と理屈を述べるのが億劫で、瞬きだけしてまた眺める。
殿下は衣服を整え終わり、すぐにでも出掛けられそうだ。
「眠れた?」
私は浅く顎を引いた。ちょっと瞼を閉じたつもりが、そのまま眠ってしまった。夜中に目を覚ました時には、ソファーに座ったまま殿下ともたれ合う形だった。
殿下は静かに眠っていらした。殿下が目を覚ました時には私がぐっすりと眠っていたことだろう。
殿下が猫の頭を撫でるように、くしゃりと私の頭を撫でる。
「皆が起き出す前に戻るよ。まだ早い、もう少し眠るといい」
「少しお寝坊がしたいです」
本当はひとりで考える時間が欲しい。昨夜はあっさり寝てしまったので。
「分かった、十時に迎えに来る。それまでゆっくりして」
廊下へと滑りでる殿下の背中を見送りながら、私は「よっこらせ」と固まった関節を伸ばしながら、考え事をするためにベッドへと移動した。
そして。考え事をする場所としてベッドは不適当であると身をもって知ることとなった。
次に私が目覚めたのは、ドアをノックする音。凝視した置き時計の針は十時十分を示していた。
「うわあ!」
絶望の叫びは厚い扉を通したらしい。殿下が少しだけ隙間を作り「急がなくていい。出直そうか」とおっしゃるので「十五分ください!!」と頼む。
ウォータープルーフ仕様という素敵な品はないから、泳ぐ前にお化粧はいらない。アップが崩れ凄みさえ感じさせる髪は指で梳かしてヘアゴムで雑な団子に。
寝起きの私を既にご覧になった殿下にはもう取り繕う必要もないけれど、他の方の目につかない事を願うばかりだ。
「このまま王宮に滞在すればいい」
水路を歩きながらの発言。できないことだと分かり切っているので、返す私も気楽なものだ。
「ありがたいお言葉ですが、準備が整いましたら王家直轄領に出向きますので」
私とバージニアは寄付を募る活動ばかりをしているわけではなく、本格的な遠征の日程がそろそろ決まる。
アリスだった身としては、気になることは多々ある。
バージニアは、鍵は私とブレンダン殿下にあると言い、殿下は、私の異世界転生の理由はベールの司祭ことエミリー・トラバスとアリスの関係にあると考えていらっしゃる。
竜巻の前後を思い出せれば話が早いのに。焦れったい気持ちを抱えた私の手首を、殿下が水中で握った。




