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酔っ払い聖女はディナーの後で……・2

「勝負強いというなら、聖女本人もそうだ」


 ライリーさんとバージニアが夫婦なら、バージニアも「ちょっと稼ぎにカジノへ行ってくるわ」となる。迷信も理由がわかれば、なるほどだ。


 さて、デザートもすっかりお腹におさまったことですし。



 私は席を立つとスカートをたくし上げショーツに挟み出した。殿下が目を見張る。感情を表に出さないと聞いていたのに、そうでもない。


「私の知るブレンダン殿下みたい」


 私のスカートは一昔前のバレエの王子様役が着るようなカボチャパンツ状態になった。太ももからつま先はガーターベルトと靴下なのでお見苦しいことこの上ないが、必要なので耐えていただくしかない。


 靴を脱ぐ私に「なにが始まるのかな」と話しかけながら殿下が扉に鍵を掛けるのを視界に入れつつ、告げる。


「これより、平泳ぎの足使いを説明します。酔っ払うと出来なくなるので、今のうちに」

「むしろ酔っているからこそ始めたのではないか、と思えるが。水辺以外では恥じらいがある、と言わなかった?」



 聞き違えたのだろうか、と訝しむ殿下に「その通りです」と返す。


「ですが、優秀な才能を持つ殿下のやる気がそがれないうちに、お教えしたいので。限られた時間内で効率よくお伝えするには、なりふり構ってはいられません」


 右手を耳につけて真っすぐに伸ばし宣言すると、殿下はそれ以上なにもおっしゃらなかった。



 私は背もたれのない丸椅子をたぐり寄せ、その上に腹ばいになった。ちょうど床に手が届く高さなので、足を宙に浮かせた姿勢を維持しやすい。


「まず、私が平泳ぎの足使いを実践します。よく見て、分からないところは質問してください」

「――よく見ていいのだろうか」


 ここまでさせておいて――頼まれていないけれど――見てくれないなんて、無い。


 腿を左右に開き足を前に引くタイミングで殿下が息を飲んだのは、クロールとのあまりの違いに困惑したせいかもしれない。この動きだけで、平泳ぎは技術のいる泳ぎだと見抜いたとしたら、殿下の才能は本物だ。



「ひとかきひと蹴り。『手で水をかく、足を曲げる、手足を伸ばす』が一連の動きです」


 数度繰り返し「わかりましたか?」と仰ぎ見ると、殿下は掴みどころのない表情をしていた。

これは、ご自身にやってもらった方が早い。


「さ、今度は殿下が」

場所を変わってくれるよう頼む。


「いや、その」

「さ、お早く」


 ぐいと手を引き、遠慮がちな殿下を椅子に腹ばいにさせてから、靴裏をつつく。


「ここで水を蹴ります。足の甲で蹴ることを『煽り足』と言い良くない動きとされますし、進みづらいのです」


 無言の殿下の足を持ち、

「はい、お尻の方に引きつけて、伸ばす。いい形ですよ――はいもう一度」


 ぐっと押しては引く。殿下は大変覚えのよい生徒で私は満足だった。



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