酔っ払い聖女はディナーの後で……・1
「待たせたね」
「いいえ」
ブレンダン殿下ご不在の間、三色のお酒が層になるカクテルを目の前で作ってもらっていたので、退屈することはなかった。
「色は綺麗だけれど、飲むのは止めておいた方がいい。観賞用だ」
今まさに口をつけようとしていた私を制し、取り上げて手の届かない所へとグラスを置いてしまった。
「君には少し強いかもしれない」
座学がまだなのに酔われては困ると思っていらっしゃるのか。ご自身も食後酒を口に運ぶ殿下は、飲む前と少しもお変わりない。
「ケントと付き合っている?」
まさか殿下のお耳に入るほど噂になっているのか、と驚いた。
「『ということにしている』が正確です」
殿下まで騙す必要はないので、真相をお話する。
「『ということ』とは? 遠征中は同じ部屋で過ごしていたと聞いた」
誰がそんな細かい報告をしたのだろう、余計なお世話だ。
「それを言うなら、バージニアとライリーさんも同室でした。聖女と性的関係を持つと勝負運が上がると言われているそうですね。脱ぎっぷりのいい私なら好色だろう、なんて考えた男性が夜中に部屋へ来るかもしれないと、ケント伯が気を遣ってくれました。『廊下で見張るなら、一緒の部屋で過ごした方が負担が少ない』と言い出したのはバージニアですけど」
「やる」とか「やらせる」なんて下品な言葉を避けたせいで、逆に説明が分かりにくくなった。
「女性から申し出てくれなくては、こちらからは出来ない提案だ。なんと言うか……君達は悪評が立つ懸念より、合理性を重視するのだね」
そんな大層なものでもない。私の気分は「旅の恥は掻き捨て」だ。どうせ日本に帰るのだから、噂などかまわない。
コツンと殿下がテーブルを指で打った。
「まだそんな迷信を信じている者がいたとは。その理由は聞いた?」
運ばれたたっぷりのクリームののったベリーに私の目は釘付け。
「いいえ」
「我が国には国営カジノがある。一応会員制をとっているが、貴族でなくとも入会できる」
食べながら聞いて。と勧めてくれるブレンダン殿下は、やっぱりいい人だと思う。
「聖女の夫となるのは、たいてい教会の衛兵か下級貴族だった。収入も資産も充分とは言えない。だから、国営カジノで必要なだけ勝たせるという不文律がある」
「……いかさま賭博?」
「率直にいえば、そうなる」
殿下の微笑は「率直過ぎる」といっている。
「聖女は異世界より着のみ着のままでお越しになる。夫となる者が生活の全てをみるのは当然としても『元聖女に相応しい暮らし』の維持は、簡単ではない。だからといって国庫から支出することも出来ない――表立っては」
なるほど、カジノで勝てば誰も文句は言わない。




