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酔っぱらい聖女は愚痴る

 夕食はブレンダン殿下とふたりきりだった。他のご家族が一緒となると、それはつまり王家の皆様ということだ。

 私では何もかもが失礼となりそう、きっと食べ物が喉を通らないほど緊張すると思う。それなら殿下とふたりのほうが絶対的にいい。


 服は着てきた一着しかない。かなり気になる感じに汗をかいたのは、全力で無視する。

殿下おひとり着替えてズルいと思ったのは、内緒だ。



 一緒に体を動かせば仲間意識が生まれる。そしてお酒が入ればうちとける。私は一缶のハイボールで充分なタイプで、今はワインをグラス一杯あけたところ。


沈黙に困らない理由は、私がひとりでしゃべり続けているからだ。


「スイミングスクールに通い始めた頃は子供だったので、理屈じゃなくて言われたように体を動かして覚えたんです。体が勝手に動くようになるまで叩き込むといいますか。でも大人が習得しようと思うなら、仕組みなり何なり分かった方が理解は早いんです」


「ミナミ嬢は教えるのが上手いね」


殿下の言葉に、私は謙遜などせずに首を縦に振った。


「職場にも毎年、新人が入りますから。『見て覚えて』じゃダメなんですよねぇ。これは出来るこれは出来ないと把握して仕事を任せないと『教えてもらってないのにやれなんて、嫌がらせだ』って上に訴えられて、指導役の私が始末書を書かされるので」


殿下が頬を上げたのをみて、気を良くして更に熱く語る。


「なのに、若い子は続かないんですよ。『仕事がつまらない。自分の成長に繋がらない』って。最近じゃ私、この子は半年もたないなとか予測がつくようになって。それじゃ教える意欲も湧きません、どうせ辞めるって分かってるのに」


 もはやただの愚痴。嫌な顔をせずに聞いてくれるブレンダン殿下はいい人、いい人だ。


「それでも君はきちんと教えるのだろうね、若いのに気苦労が多い」

「若くないですよ、もう全然」


 顔の前で手を振り否定して思い出す。今の私は若いのだった。この国の就労年齢が低いので会話に違和感はないらしいが、酔いを自覚した。

だからといって、滑らかになった舌は止まらない。



 お料理を運んで来た男性が、テーブルの陰でメモらしき紙を殿下に見せた。

なにかご用事が入ったのかと心配になり「え、まだ聞いて欲しい」と思う。


メモを一瞬で読み取った殿下は

「すぐに戻る。どこまで話したか、忘れないで」

素敵な笑みを浮かべると、席を立たれた。


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