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聖女の異世界水泳教室・3

 いつもプールでするように、とぷんと頭のてっぺんまで水に沈む。と、勢いよく引っ張り上げられた。


「!?」


 ブレンダン殿下が幼子を抱える父親のように私を水から引き上げたのだと理解するのに、少しばかり時間を要した。

焦った顔の殿下に尋ねる。


「どうかしましたか」

「いきなり君が沈んだから」

「いつもこうして全身濡らしてから、泳ぐので。すみません、びっくりさせて」

「いや、こちらこそ、すまない」


 早とちりを詫びてくれる。陸からさんざん教えていたのに、泳げるところを実際に見せなくては納得がいかないほど、この国は水泳から遠ざかっているのだろう。



 私は背泳ぎのように上を向き、水の流れにそって体を浮かせた。殿下の手首を握っているので、離れてしまう心配はない。

これでお顔を見ながらの説明が可能だ。


「この形で泳ぐのは背泳ぎという泳法ですが、足の使い方はクロールと変わらないので、分かりやすいようこれで説明します」


 殿下は私の顔を見つめているけれど、見るべきはそこじゃない。


「はい、足にご注目ください」

促して、片足を水から出した。

「足は真っすぐに伸ばします。膝も足首も曲げません。足の付け根から二本の棒のように動かしますが、足首はやわらかく保ちしならせるイメージです。それにより推進力が出ます」


 足をおろして足首の使い方を見せた。少し内股気味にして親指同士が擦るようにと教えられた――ような気がする――が初日にしては求めすぎ。とにかく膝を曲げてバシャバシャとしないことが大切だ。



 ビート板があれば息継ぎが教えやすかったのに。そういえば伏し浮きを教えなかったけれど。


「殿下、水の上に浮けますよね?」

「手足が下がらぬよう加減するだけと考えるが、他になにか?」


 やはり逸材、理屈をそのまま体に伝えられるらしい。それなら上から見てもらえば早い。


 私は体をひねって足を水中に沈め、殿下と向かい合わせになった。


「水から上がって、泳ぐ私の横を歩きながら見てください。できるだけゆっくり分かりやすいように泳ぎますから」


 途中途中で止まり注目点を示して、コツを掴んでもらおう。挿し絵であそこまで出来たのだから、動画ならもっと覚えが早いはずだ。



「分かった。しかし……本当に正視してよいのだろうか」

「しっかりと見て覚えてください」


 見てもらわねば意味がない。二度も三度も同じことを教えるなら、しっかりじっくり観察して記憶にとどめていただきたい。


 私は殿下の手を離し、薄いパンツの上から足の付け根に指をあてた。セクハラという概念がまだないから、教える為ならきっと許される……と思う。


「ここを、意識してください。右足と左足で力の入れ加減が違えば――」


言いながら殿下の右腰をぐっと押した。


「このように体がふらつき、真っ直ぐな姿勢は保てません」



 殿下は先ほどから何か言いたげにしては止めてを繰り返しているが、質問は見て学んでからまとめて受け付けよう。


「さ、上がって」


私は殿下に水から上がるよう促した。


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