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聖女は鐘楼で異世界を語る・1

 異世界に転移すると知っていれば、もっと使える知識を身につけたと思う。

考えもしなかったから、普段から味付けには麺つゆを使うようなお手軽料理ばかり。こちらの世界ではなんの役にも立たない。


 異世界でシュークリームを作ったりパンを焼いたりするヒロインのお話を普通に読んでいたけれど、材料の分量と作る手順が頭に入っているなんて、とても素晴らしいと思う。彼女達のスキルの高さを称賛し拍手を送りたい。



 バージニアはお嬢様育ちでも戦中戦後を生きただけあって、様々なことに詳しく、今も餃子についての説明を皮の作り方からしている。


 珍しもの好きなお金持ちの好奇心を満たしていて、さすがだ。この世界で餃子が流行ることになるかもしれない。店名はもちろん「餃子の聖女」と私の妄想は広がった。



 王都にいる間は、今日のようにお茶会や集まりに寄進のお礼をかねて参加する。ライリーさんが必ず付き添ってくれた。


 そのなかで、学生時代に見知った顔を見かけた。皆二十代半ばになっていた。アリスを知っているかと聞きたい気持ちになる。


 この世界にウォルター家が存在しないうえ、私の外見は日本にいた頃に寄せているので、気がつかれるはずもない、夢想するだけだ。








 いつものように出掛けたある日、教会でケント伯が用を済ませる間、待つこととなった。ライリーさんとバージニアは、別件で街に出ると言う。


 敷地内ならばどこにいても構わないと言われたので、まだ見たことのない中庭へ行くことにした。

 振り返って建物を眺めると、窓ひとつひとつに装飾が施され美しいことに気がつく。


 どの部屋が何に使われているのか知らないが、気になる窓があった。白いカーテンの向こうに人がいるような気がする。


 目を凝らしても室内は窺えない。でも、向こうもこちらを凝視していると感じる。しばらく待ってもカーテンは動かない、私は諦めて屋内に戻った。



 廊下をあてもなく行くうちに、鐘楼から外を眺めようと思いついた。

 最上階からは、広い範囲で街を見渡せる。こちらだろうと当たりをつけて向かった先に階段を見つけた。


 パンツだと楽なのに、せめて膝下丈のスカートとか。この国の女性はそろって長い丈のスカートを着るから、私も同じようにデイドレス。


 上りでもスカートの裾で階段の掃除をしているようなものだ。これは帰ってから手で揉み洗いがいると思うと少し面倒くさい。


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