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悪役令嬢ではなくハラスメント令嬢?!・2

ケント伯が尋ねる。

「私ひとり?」

「いえ、皆様ご一緒でございます」


 案内され廊下を行き、いくつかの部屋を通り過ぎて着いた部屋で、待つようにと言われた。








「待たせたね、ケント」


 思うより深い声音。「十年後のブレンダン殿下」は、大人の男の人だ。

 綺麗に整えた金の髪と濃い緑色の瞳は同じ。でも、優雅で落ち着きのあるブレンダン殿下は、私の記憶にあるひとつお年上の殿下とは差が大きい。


 と言っても、この国に来るまで、アリスだった頃の思い出にひたることはあまりなかった。




 日本語しか話さない、どこにでもいるような子として地方都市で育ち、ある時友人に勧められて「異世界転生もの」にはまり乱読したのは、競泳を止めて時間の空いた中学二年の頃。


 特に貴族や王族が出てくるようなものは、分かりやすく書かれているせいか想像がたやすかった。「この作者さん、本当に異世界へ行って戻ったのでは」と思うほどだ。


そのうち自分で思いついた話を書き留めたくなった。



 主人公はアリス・ウォルター。お家は子爵家。頭が固く融通のきかない父親、教育熱心で口うるさい母親と三人家族だ。


 水野ほのか(今はミナミと名乗っています)の感覚からすれば、覚えが悪いからと叩いたり、教えた事を間違えたら食事抜きはハラスメントに該当するけれど、この世界の親ならする。


 堅物である父に似て可愛げのない少女に育ったアリスは、学校でも親しい友人はいない。だって一緒にいて楽しくないもの。

書き出して「こんなつまらない話、誰も読まない」と思った。



 さて、教育熱心な親は孟母三遷じゃないけれど、娘に学をつけさせようと都に出ます。

 通う学校でアリスは勉強はそこそこの使い勝手のいい生徒として先生に使われますが、本人は全く気づいていません。むしろ誇りに思っている節もある……馬鹿なの? 書きながらツッコミを入れる。


 そして満を持しての転校生登場。亜麻色の髪をした人懐っこい可愛子ちゃんだ……なぜか言い方が嫌味になる。



 そこから先が、はかどる捗る。書き出したどれもが「ん?」と思うものだった。


 こんなキツイ言い方をしていい? 「一回で覚えてください」なんて、どの口が。学校にまだ慣れない転校生の言葉遣いまで訂正して。

同級生に「静かにして」と面と向かって言うのは、どうなの?


 主人公とはいえ、アリス何様? この世界でクラス委員ってそんなに偉いわけ?

 もっと勉強したほうがいいなんて、人のことはいいから自分がしろよアリス。主人公なのに健気さと努力が足りない。


 進めるうちに気がついた。これって悪役令嬢では……ちょっと、いやかなり小粒だけど。


 ハラスメントっぷりは堂に入っていて、今なら先生に親共々呼ばれる。エミリーさんに「アリスさんが酷いんです」と泣かれたら、人生が終わる。


そこまで考えて、中学生の私は片頭痛を起こした。


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