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悪役令嬢ではなくハラスメント令嬢?!・1

 王都に戻った私達は、王室のひらく昼食会に出席することとなった。  


 あのあと――ケント伯の「俺の女」発言の後――、女っ気のなかった隊長がそこまで言うのだから皆で応援しようというムードが生まれ、なんとも居心地が悪かった。


 案外ライリーさんが扇動していたのではないか、と私は疑っている。



 そして今日も。

「常に俺の目の届く所にいてくれ、ミナミ嬢」


 耳元でささやくのはケント伯。普通に言って欲しいとお願いしたところ「付き合っているふたりの距離感は、これだとライリーから助言を得ている」と、自信たっぷりに返された。


 やはりライリーさんは上司で遊んでいる。そう確信して文句のひとつも言おうと顔を向けると。


「本日は一段とお美しくていらっしゃる、バージニア嬢」

「ほほ、ライリーさんも正装がとてもお似合いです」

「世辞と分かっていても、あなたに言われると嬉しいですね」

「本心ですわよ」


 などと、バージニアとライリーさんはお手本のようなお出掛け前の会話を繰り広げていた。


 黙して拝聴する私の耳に、軽い咳払いが聞こえた。ケント伯もこれがあるべき姿だと学んだのだろう。でも、私相手に無理をしてもらわなくてもいい。


「結構です」

先に制した。

「――何も言っていない」

若干不服そうな顔つきになるケント伯。

「それは失礼をいたしました」


 なんともしまらない私達と違い、バージニアとライリーさんはお似合いのふたりだった。









 王宮へ足を踏み入れるのは、アリス時代も含めて初のことだ。ウォルター家はお招きを受けるなんて考えられない末端貴族だったから、異世界から渡って聖女となったのが大出世で、昔の夢を叶えたとも言える。


 昼食会は季節毎に定期開催され、本日は百名以上が集うそうだ。

緊張を感じ取ったのか、私の手を取って自分の腕に重ねてくれたケント伯が年上らしく、安心させるような笑みを浮かべた。


「ここには猪も熊もでないから、滅多なことは起こらない」


 そう言われましても、別の種類の怖さがあるのだと訴えるべきか否か。迷ううちに着席した。



 本日いらっしゃる王家の方は、王弟殿下とブレンダン殿下と聞いていた。

私の知るブレンダン殿下ではないとしても「同じ部屋に」と思うと胸がつまる。


 食のすすまない私にバージニアが、ゼスチャーで聞く。

「乗り物酔い?」


「慣れない晴れのお席に緊張してしまって」


 返事を声に出すと、ケント伯の手が背中に触れた。私の肉の厚みを測るような動きをする。


「来た頃より痩せたのではないか? ミナミ嬢はもう少し食べる量を増やすべきだと思うが」



 私が「背肉をつままないでください」と抗議しようとしたところで、給仕とは違う服装の男性が、ケント伯の脇から小声で話しかけた。


「ブレンダン殿下が、お時間をお取りになります」


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