俺の女に手を出すな
「私達狙われなくて済みそうですね」
ごろん。寝返りをうって天井を見上げる私が思い出すのは、今朝出発前のライリーさんだ。
「みんな、よく聞いてくれ。バージニア・コール嬢と結婚を前提にした交際を始めた」
いきなり宣言した。
「あらあら、まあまあ」
おっとりとした微笑を崩さなかったバージニアも承知していることと思ったら、なんと打ち合わせは一切なかったらしい。
驚きで声も出ない面々にむけて、ライリーさんがニヤリと不敵に笑い、言い放った。
「お前らには、渡さない」
どよめきが起こったところで
「じゃあ、じゃあミナミ様、一回でいいんで俺としてください!」
朝からよく言ったと感心してしまう発言があり。
ライリーさんがさらり。
「いや、ミナミ嬢は隊長と寝た」
さらなる興奮のるつぼとなった。朝からこのテンションでこの人達は一日もつんだろうか、と「中身はお姉さん」の私としては、恥ずかしいというより心配になる。
たしかに一緒に寝た。部屋には広い寝台がひとつあるだけだったので、私は左端に寄り、右側にはケント伯が寝た形跡があった。
朝目覚めた時には姿がなかったので、言葉を交わしてはいない。
バージニアとライリーさんは、壁から壁にロープを張りシーツをかけて寝台をふたつに仕切り、お互いの寝姿が目に入らないよう配慮したそうだ。
やはり脱ぎっぷりのいい恥じらいのない私とは、扱いが違う。
なに盛かはさておき、男子は落ち着く様子がない。
「ここはひとつ『俺の女に手を出すな』くらい言ってもらわないと、おさまらないかも」
呆れつつバージニアにそんな事を言ってみる。
「俺の女に手を出すな」
本日の快晴にぴったりな、朗々とした声が響き渡った。
ただし内容は、爽やかな朝にそぐわない。誰の声、と尋ねるまでもなくケント伯だ。
「これでいいのか?」
後ろから耳元に唇を近づける。
わざと、わざとなの? 心臓が止まるわ、やめて欲しい。
首を捻じ曲げて睨むと、何をどう解釈したのか、任せておけとばかりに頷いて。
「ミナミ嬢に無意味に話しかけるな、脚を見るな。言うまでもないが、昨日の勇姿を思い出してアレコレ想像することも禁ずる」
堂々と言い渡した。
せっかく一晩寝て忘れたふりをしていたのに、余計な事を思い出させてくれた。恨みがましい気持ちになる。
「これでいいのだな」
また小声で確認されて、悟る。
ケント伯は賭け事をしないなら女遊びもしないとても真面目な方で、きっとこれは素なのだと。
今もケント伯は、乗り物酔いで気分が悪いだけの私を浄化で負担がかかっていると思い、食欲がないのを気にかけて果物を探しに町へ出てくれている。
バージニアはライリーさんと……? そんな私の疑問を察したようにバージニアが微笑する。
「なるようになりますわよ」




