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狙われる聖女を守る方法・2

 私はバージニアを見、バージニアは落ち着いた表情でケント伯を見ていた。


「それほど危ない宿とは思いませんが」

「危ないのは宿ではなく、部下だ」


驚く私と違い、これまたバージニアは平静そのもの。


「どういうことでしょうかしら」


 私を横目で見たケント伯が、バージニアに視線を戻した。


「聖女は神聖なものと聖教会では教えている。しかし、本日ミナミ嬢が扇情的な姿態を見せつけたことにより、部下の目には『妖艶で刺激的な女』として映るようになった」



 誉めてる? 誉めてない。どちらかと言えば非難されている。

いえ私は妖艶という体型ではまったく無く……と思うのはミナミの考えで、ひとつ言えるのはアリスならあの場面では、泳げたとしても絶対に脱がないということだ。


 現代人として慣れているから、例えばチアリーディングや新体操もそういうものとして観るけれど、この国の方々には信じられないほど魅惑的で平常心を保つのは難しいかもしれない――体型を問わず。



「皆、川には水の精がいて人を水底に引き込むと信じて、泳ぎはしない。泳ぐのは海で働く者だけだ。そんななかミナミ嬢は、水の精をものともせず見事な泳ぎを披露した。惜しげもなく肌をさらして」


最後の一言が余計。



 悪口ばかりが並ぶなかで、バージニアには察するところがあったらしい。


「それでケント伯は、夜中にミナミ目当てに押しかける男性がいるとお考えに」


ケント伯が瞬きで肯定した。


「それだけではないのでは。他地域では『聖女の肝を食すと不老長寿になる』と、わたくし肝を狙われたことがありました」


「肝臓を……」

ギョッとしたライリーさんが、口にする。


「聖女の『初めて』の男性には神の加護がつく、そのように信じていた国も。無理強いなどしては、それこそ神罰が下るとわたくしなどは思うのですけれど。そこはそれ殿方は都合よく解釈なさるのでしょうね」



 私が言えば喧嘩になりそうな発言も、バージニアなら知識の披露だ。

少し考える風に一度視線を外したケント伯が口を開いた。


「――勝負運。『聖女と交われば勝負運が上がる』とされる。もちろん馬鹿馬鹿しい迷信だ、が盲信している男がいるのも事実。特に兵士には賭け事をする者が多い、酒好きも」


 部下を貶める発言をしたくなかったのだろう、ケント伯の口の端が下がっている。


 バージニアはライリーさんを斜めに見上げると、促すように小首をかしげた。

ぽうっとした彼が、慌てて否定する。


「私も隊長も、賭け事は一切いたしません! 役職者として禁じられているのもありますが、元来好みませんので」


そうですかとバージニアが視線を戻した。


「今回の件を切っ掛けにとおっしゃいますけれど、少しでも隙があると見れば今までも危険はあったのでは? ミナミもわたくしも」


 それで、どこへ行くのもライリーさんが一緒だったのか。私は、てっきり勝手なことをしないよう見張っているだとばかり思っていた。


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