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狙われる聖女を守る方法・1

「遅れを取り戻す」


 ケント伯が私を抱えたままで馬を走らせたのは、懲らしめるためか、でなければちょっとした嫌がらせだと思う。乗り心地は悪く私はまた「うっぷうっぷ」と吐き気をこらえた。


 騎馬隊が第一陣として宿に着き、副隊長のライリーさん率いる二陣は遅れて来る。馬車に乗ったバージニアはそちらだ。

 

 ずぶ濡れの私を抱えたケント伯も同じぐらい濡れてしまって、話は湯を使ってからとなった。



 人心地ついて、宿の部屋で温かい飲み物など頂いているうちに、到着したバージニアが軽く拍手をしながら姿を見せた。


「素晴らしい活躍でしたね。スイミングスクールを作って良かったと思いました」


 人生で切実に「泳げて良かった」と思う機会はあまり無いし、あっても困る。


 バージニアが手放しに誉めてくれるのを、さっきケント伯には叱られたばかりだと少し苦い気持ちで思い返していると、彼女が打ち明け話をするかのように声をひそめた。


「先で荷馬車が立ち往生して道を塞いでいると聞いて、ケント伯は様子を見に隊を離れていらしたのですって。いらっしゃらなくて良かったわね」


 旗の「重み」がかかるのが、若い男の子ではなくケント伯と知っていれば飛び込まなかった、とは言い辛い。

小者の私と違い、バージニアは人による差をつけない気がするので。



 私とバージニアが藤堂スイミングスクールの話で盛り上がっていると、扉がノックされた。


「常に施錠し、開ける時は相手を確かめてから」


 立っていたのは渋い顔のケント伯。ホイホイ開けた私に小言を言う。


「すみません」

形ばかり謝って、ケント伯とライリーさんを部屋に通す。


 ライリーさんは旅装だが、ケント伯の髪は湿っているように見えるので、彼も湯を使う暇はあったようだ。原因は私なので、そこは申し訳なく思う。


「どうぞ、お掛けになって」


 バージニアの勧めで、バージニアとケント伯が小さな円卓を挟んで向かい合わせに座り、ライリーさんがその後ろに立つ。私はベッドに浅く腰掛けた。


 

 沈黙が広がる。こういう場面で、私は沈黙に耐えきれず先に口出ししてしまう性格だけれど、バージニアは様子をみるタイプだ。みならって大人しくする。


 では私から、と言うように一呼吸おいてライリーさんが口を開いた。


「この宿は水回りが共同です。夜、部屋を出る時には私か隊長に声をかけてください。くれぐれもおひとりで行動はなさいませんように」


 つまりトイレに行く時も、わざわざおふたりの部屋まで行き、子供のように「ついて来て」と言えと。


 私の疑問が形となって見えたのか、ケント伯が衝撃発言をした。


「俺かライリーが常にこの部屋の前にいる」


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