これは聖女の能力ではなく特技です・4
疲れて旗に体を持っていかれるようになっていたから、なるだけ近い草束を握りしめた。
十代女子だからもっと体力があってもいいのに、と毒づきながら待っていると、馬から飛び降りたケント伯が勢いのままに駆け寄った。
草地に膝をつき両手でがっちりとつかんで荷物のように水から引き上げてくれる。
予想以上に重いらしく、全身を使って引き上げてくれた反動で、なりふり構う余裕もなくふたり揃って草地に腰を下ろした。
ゼイゼイはあはあする呼吸音だけが響く。
初夏とはいえ、水温は「心臓がきゅっとしなくて良かった」と思うほど低く、水から上がった私は、歯の根が合わないほど震えた。
旗に土と草がついているけれど、ここにあるだけマシだと思って欲しい。
「はい、これどうぞ」
ケント伯へずるりと押し出した。直後。
「なんてことをするんだ!!」
怒声を浴びた。
「いけると思ったし、旗がないとクビになるかもしれないんでしょう? 旗はここにあり問題はなにもない。違いますか」
怒鳴れば黙るなんて、ない。私は冷静に受けて返すタイプではなく、強い球が来たら同じ強さで返すタイプだ。
強い視線を真っ向から受け止め、「感謝されることはあっても非難されるいわれはない」と目に力を込める。
譲ったのはケント伯だった。
「俺のクビなど、どうでもいい。無茶はしないでくれ」
折れてくれれば、私も譲る。
「もうしません」
反省して、ひっかかった。
「俺のクビ?」
「遠征で何かあれば、全ては俺の責任だ」
重々しく言う。
担当者じゃなくて。部下の失敗は上司の責任……そんなお手本の様な組織と知っていたら、飛び込まなかった。
あの男の子がクビになったら気の毒だと思ったのだ。
ケント伯が私に腕を伸ばす。抱きしめられた……のではなく、自分の埃よけマントを貸してくれたのだった。まだ寒い。
「俺のことはいい。自分の心配をしてくれ。命を落としたらどうする」
ここで命を落としたら、あの日に戻る。ただそれだけ。二人でしていた仕事をバージニアひとりですることになるから、負担は増えるけれど任務は完了できると思う。なんと言っても彼女はプロですから。
「隊長、言いにくいことですが……お御足がさらされています」
ついてきた衛兵の言葉に下を向くと、投げ出して座った脚の太ももから下がまるっとむき出しだった。
ケント伯の顔色が変わりマントで包み直す。マントのほうが短いので全部は無理。
「足を縮めてくれ」
言うと私を病人のように抱えて、危なげなく立ち上がった。
「あ、歩けます! ケガもありませんし」
「靴もない裸足で、石で切ったらどうする。それに裸体をさらして歩き回るな」
ラタイって、裸体。
「着てます!」
「着ているうちには入らん!」
即座に言い返された。
ぱっと見、周りの人々は顔を赤らめたままホッとしている。この国で「水着」は、刺激が強過ぎたらしい。
「私、露出狂あつかい……?」
聞こえたと思うのにケント伯は、こちらを見ない。つまりは肯定だった。




