表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/171

これは聖女の能力ではなく特技です・2

 バージニアと衛兵の彼にとっては当然の旗の「重さ」は、私には理解が及ばない。


「旗をなくしたりしたら?」

「破損でもあなた、場合によっては懲戒ものですわよ。戦中においても『お前の命なんかどうでもいい。旗を守れ』というお国もあったくらいですからね」


 そう言うバージニアは、異世界でも戦争当事国にいたことがあるのだろう。


「懲戒って、クビですか」


 重ねて聞いていると「ああっ」という悲痛な叫びが響いた。私の不適切発言のせいかと焦ったけれど、誰もこちらを気にする様子はない。では?

旗を見れば、風に煽られたのか川面についている。


「もう……もうダメだ……」


 ガックリと座り込んだのは、今朝挨拶を交わした若い男性だった。そういえば彼が旗の係だと言っていた。あんなに張り切っていたのに、と気の毒に思いながら再び水面に目をやると、旗は吸った水の重みで枝から離れるところだった。


 あの位置では、土手からは拾えない。そして事は急ぐ。



――後は私が腹をくくるかどうか。


「この橋、高さはどれくらいですか」


私の問いかけに、バージニアが目測する。

「十メートルは、ないわね」


「深さは?」

「この河は深くて流れがゆるやかなんだ」

答えたのは、旗が落ちたと教えてくれた衛兵。



 バージニアが「まさか」とこちらを見た時には、私は既に背中のボタンに手をかけていた。


「バージニア、脱ぐの手伝ってください。この先に滝があったりしませんよね?」

「あるわけねえだろ」


 見渡す限り平地、衛兵になに見てるんだと言うように軽く馬鹿にされた。一応確かめたまでなのに。



 ドレスが足元に落ちた。どよめきが広がって、なぜかすぐに沈黙に変わる。


 ドレスの下は、日本から着てきたキャミソールとバージニアが縫ってくれたハーフパンツ。

一瞬考えてからハーフパンツも脱いだ。合わせて周囲も息を呑んだような気がする。気を利かせて、目を逸らせばいいものを。


 下着姿だと思えば恥ずかしいが、水着だと思えばこんなものと自分に言い聞かせる。


 上下黒で揃っているから競泳用水着っぽい。転移した日に偶然上下の色が同じで良かったと、初めて思った。



 脱いで軽くなったところで、腕をぐるぐると回し肩をほぐす。首を左右に振り足首と手首をゆるめる。

 片脚ずつ膝をかかえて胸に寄せ、最後に三度飛び上がった。


仕上げに、拳で二度ずつ左右の胸筋に刺激を入れる。



 私の脱ぎ捨てた服を腕にかけたバージニアは、どこからか気がついていたらしい。


「あなた、うちのスクールに通っていたのね。高飛び込みのクラス?」

「いえ、競泳の選手コースでした。専門は個人メドレー、最高成績は県大会入賞どまりです」


 ゴーグルも欲しいけれど、贅沢は言えないし、もちろんある訳がない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ