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これは聖女の能力ではなく特技です・1

 本格的な遠征の前に一度、近い場所にある毒沼で浄化を試みることとなった。私ミナミの感覚では片道五日かかる場所は「遠い」けれど、隊長を含む遠征隊の方々は「近い」と事もなげに言う。


「また馬車か」と若干暗い気持ちで出発を待っていると、旗を手にした若い男性がこちらを見た。


「おはようございます」

「おはようございます。よろしくお願いいたします」


 元気な挨拶に応えた私の視線が旗にとまっていると気づいた彼が「これですか」と、旗を軽く持ち上げる。


「聖教旗です。国旗と聖教旗を掲げて行きます。初めて旗を任されることになりました」


彼の表情から察するに、栄誉あるお役目なのだろう。


「おめでとうございます。よろしくお願いします」

「はい、ありがとうございます!」


「おめでとう」で良かったらしい。清々しい笑みを見せてくれた。








 小編成と聞いた隊でも、騎馬隊に人の乗る馬車や荷馬車が連なると、私から見れば結構な行列。


「大丈夫? 顔色が悪いわ」


 ふたりきりの馬車内でバージニアが水をすすめる。彼女には迷惑をかけるかもしれないと考え、乗り物酔いをしやすいと告白しておいた。

今飲むと吐きそうなのでお気持ちだけ頂き、ありがたくも水はお断りする。


 動き出してまだ半日、夕方までかけて少し大きな町へ行き、宿に泊まると聞いていた。あと4時間は耐えなければならない。



馬車が停まった。

「休憩かしら、少し早いように感じますけれど」


 馬を休ませなければならないため、休憩はきちんと行程に入っている。


 目隠しカーテンに隙間を作ったバージニアが状況を説明してくれた。


「川が近いようよ。と言うよりわたくし達、橋の上にいます」


 外からはざわめきが伝わる。「落ちた」だの「飛んだ」だのと、聞きようによっては物騒な言葉が飛び交う。

私とバージニアは顔を見合わせた。


「ちょっと出てみましょうか」

「はい」



 よいしょと外に出ると、皆揃って川を見ている。珍しい動物でもいるのか。


「どうかしまして?」


バージニアの問いに、衛兵のひとりが川岸を示した。


「結え方が甘かったらしく、旗が飛んじまいまして」


 指さす方に注目すれば、岸から張りだした木の枝に引っかかった旗があった。国旗ではなく聖教旗だ。



 落ちたのが人でなくて良かった旗なら無くてもいい、と気楽に考える私と違い、バージニアは事態を深刻にとらえている。


「まあ。大変なことよ、これは」

「そうですか?」

「ええ。旗は魂そのものですから」


バージニアの言葉に衛兵が深く頷いた。


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