ケント伯とミナミの恋人談義・2
「決まった相手はいない。ブレンダン殿下が御結婚なさる前に、私がするわけにはいかない。聖教会の衛兵は齢三十まで独身と決まっている。その先いつになるかも分からないのに、期待させたまま待たせては申し訳ないだろう」
なるほど「こっちが結婚を考える年頃になると、逆に男が慎重になり『付き合おう』と言わない」と、かつては驚くほどモテていた女友達が愚痴っていたのと通じるものがある。
黙る私に今度はケント伯が質問する。
「ミナミ嬢は、恋人と離れて寂しいのでは?」
「いません」
隠すことでもない。正直に返す。
「寄ってくる紳士が引きも切らないだろうに」
気を遣わせてすみませんという気分になった。
勤め先の晦日市南病院は女性の多い職場で、男性はいても父親世代以上がほとんど。数少ない同世代の男性は医師か技師だけれど、事務スタッフと付き合った話は見聞きしたことがない。彼らのお相手は看護師だ。
医療もののドラマでも、男性医師の恋人が事務スタッフなんて、私の知る限りない。画的に映えないしドラマティックな展開にはちと物足りなく思えるのは、あくまでも私的な意見である。
決して私が地味だからではなく。しみじみ考えていると、返事を待たれていることに気がついた。
「私の職場の紳士、例えばお医者様は私とお付き合いはしません。病院の華は看護師さんなので、別の階で働く接点のない私のことは目に入らないと思います」
「こんな美人を放っておくとは、ミナミ嬢のお国の紳士は見る目がないようだ」
お世辞まで言ってくださるのは、よほど私が弱って見えるのだろう。本気にして否定するのも野暮、話を変えることにする。
「部屋に戻ったほうがいいですか」
カーテンがひかれているが、外は暗いようだ。
「今夜はここで寝たらいい。気に入ったのなら部屋を移っても構わない。さて、私も一緒で差し支えなければ夕食をここで摂らないか。着替えて食堂へ行くのも面倒だ」
提案されて空腹を自覚した。
「ご一緒させてください」
ひとつ頷いたケント伯が、立って呼び鈴の紐を引く。あとを追う私の視線を受け微笑する。
「起きるなら手を貸そう」
「ありがとうございます」
今夜、ケント伯は年上らしい思いやりに溢れ、私は優しさに飢えていた。




