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アリスのドキドキパニック・2

 ドアノブに手をかける音がする。この部屋よりいくつか手前だ。


 私は身を固くして縋るような気持ちで殿下を見た。殿下もじっと私を見る。


 先に動いたのは殿下だった。物音ひとつ立てずに素早くドアに両手をつき、ぐっと押す姿勢をとる。


 ようやく私にも意図が理解できた。内側に開くから体重をかけて、押されてもびくとも動かないようにしているのだ。


「隠れなくちゃ」と思った私と違い、殿下はエミリーさんを部屋に入れない方法を取ったのだ。



 足音がさらに近づき、まるで室内にいるかのように聞こえる。

 ノブがガチャっというのにあわせて、私の心音もおかしな音をたてた。


「ここも閉まってる……おかしいなぁ、どこ行ったの」


 エミリーさんの説明くさい独り言からも、怪しんでいるのがひしひしと伝わる。


 

 私は殿下の背中にしがみついた。女の子だからと油断した殿下が力を抜くといけないので、加勢するつもりもある。

 殿下の背中にいっそう力が入ったように感じて「その調子です!」とさらに私も力を込める。


「明日、聞いてみよっと」


 明るい声で言い鼻歌交じりに立ち去る靴音が響いても、彼女が「なぁんてね」と戻ってくるような気がしてならない。私は殿下の背中に頬を押しつけた。



どれくらいたったのか。


「もう、大丈夫だろう」

殿下が普段どおりの声で言った。


 何が怖いのか、私の目尻には涙が滲んでいるような感じがある。



「ところで、せっかく抱きしめてくれるなら背中ではなく前からお願いしたいと思うんだけど」


 抱きしめる? 誰が、何を。

はっと気がついた。背中を押しているつもりが、後ろから腕を回して殿下の動きを邪魔するようにべったりと張り付いているのは……誰?


はい、私アリス・ウォルターです。



 手を離し飛び退いて大きく息を吸って、さあ叫ぼうとしたところで、殿下の手が私の口を塞いだ。


「待って、さすがに大声はまずい」


 鼻にはちゃんと隙間があって苦しくはない。この配慮がさすがのブレンダン殿下と感心する私に、言い聞かせる。


「トラバスさんじゃなくても、誰か駆けつけてしまうかもしれないから、叫ぶのは無しだ」


「承知いたしました」のかわりにコクコクとすると。


「謝るのも無し、いいね? 女の子にくっつかれて喜ばない男はいない。ウォルター嬢ならいつでも歓迎だ。次は前からにしてくれると、なおいい」


――そんな日は絶対に絶対に一生来ないと思います。


 緊張で頬が強張る私を笑わせようとしてか、ブレンダン殿下はそんな軽口をたたいて微笑した。


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