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教育係アリスの憂うつ

「アリスさんって、すごーい。なんでも完璧なんですね」


 それが悪いわけではないけれど、エミリーさんは声が大きい。私は級友の目が気になって仕方がなかった。


 しょせん私は子爵の娘。上位貴族とは何もかもが違うはずで、張り合うような態度を取ればそれはそれで笑いのタネになる。


 伯爵家のご令嬢は私達の会話は耳に入らない顔をしているけれど、内心可笑しく思っているのではないかと私は横目に見た。



「凄くありません。これくらい皆、子供の頃から知っています」

「知らない私は『みんな』に入れないんですね。あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくてです、はい」


 エミリーさんが、慌てて顔の前で手をひらひらさせたのは、私の目つきが険しくなったせいだろうか。

 

「同じことを何度も説明するのは、私も疲れますし聞くエミリーさんもお嫌でしょう。一度で覚えられなければ、あとは見て覚えていただけませんか。エミリーさんが『何がわかって何がわからないのか』、私には分かりませんので」


ここ数日考えていたことを、慎重に口にした。


「はい! そうします。心配してくださってありがとうございます」


 元気に言われて、曲解されなくて良かったと心から安堵したけれど、すぐに後悔することとなった。 






 どこへ行くのにもエミリーさんがついてきて、私にはひとりになる時間がまったくなくなった。


 さすがに見かねてか「補講」という形で先生が彼女を引き受けてくれた時だけ、一息つける。


「先生のところに行ってきまぁす。また明日、アリスさん!」


 彼女の後ろ姿に、どこか引っかかるものがあった。それが何なのかがわからず、私は去って行く彼女をしばらく見送っていた。


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