巻き込まれ異世界転移の私とプロ聖女・2
「渡りの聖女」聞き慣れないのも当然、藤堂様が「渡りの板前」からヒントを得ての造語だそう。
つまり聖女という職で異世界から異世界を移動する自分を、店から店へと渡り歩く和食のシェフになぞらえた。
分かりやすいと言えば、分かりやすい。
救った国の数は、七つか八つか。もう覚えていないとおっしゃる。名前も三度目からはバージニア・コールで統一しているらしい。例えそれがその国では馴染みのない発音だとしても。
そんな聖女のプロであらせられる藤堂様も「ふたりで異世界転移」は経験のないことだとか。そして私はこれが初めての異世界転移。
「この歳で初体験なんて、楽しみだわ」と微笑まれると、初心者としては心強いことこの上ない。
ここにいても始まらないのではないかと疑問を持つ私を「動いては駄目よ」と、やんわりとお止めくださる。
「到着したのは御存知のはずよ。あちらが呼んだのだから、今頃探しているわ。下手に動いて、何も知らない方に不審者として扱われると面倒事となるの。じっとしているのが一番なのよ」
「着いて早々は、『先様のお望みもお困り事も分からない。私達に何ができるかも分からない』のないない尽くしだから、お話を伺うのがまず最初のお仕事なの」
とは、実体験に基づく言葉に違いない。助言に従って静かに待つことにした。
追い追い説明してくださるそうだけれど、「聖女の仕事」は半年が目安らしい。
「いつもそれくらいよ。わたくしは戻ってもすぐに心臓が止まってしまうかもしれないから、ここへ残ります。あなたは、望めば元の場所に元の日付で戻れると思うのよ。わたくしもそうした事があったから」
なんと「帰りたい帰れない」がないらしい。それなら半年得難い経験をさせていただくという前向きな気持ちでいけそうだ。それもこれも藤堂様……じゃなかったバージニアがいてくれるからこそ。
「異世界に咲く花二輪。ヒロイン気分でお仕事しましょう」
まさかあんな地方から異世界転移するとは。そしてダブルヒロインとは。
藤堂様は私が子供の頃にはもう、私にはおばあちゃんに見え、いつもニコニコとお優しかった。
この方とご一緒できて良かった。そして「しくじったことは、ございませんの」とおっしゃるプロ聖女となら、この物語を完結することができると思う。
「どうぞ宜しくお願い致します」
私は身体をふたつに折った。
「はい、こちらこそ」
頭を下げあっていると、耳が足音をひろった。
「まずはわたくしがご挨拶申し上げましょう。あなたも立派な社会人でいらっしゃるから――」
おっしゃりたい事があれば、遠慮なくおっしゃって。とバージニアは、若い外見に似合わぬ貫禄のある笑みを浮かべた。