あなたのことを知りたい
今日の歓迎会は大口の出資者に「聖女と聖教会はうまくいっていますよ」と見せるためのもの。もちろん最大の出資者は王家だ。
生薬と聞いて私が思い出すのは、小青竜湯とか小柴胡湯、麻子仁、桔梗湯。名称と効能を知っていても、成分ははなはだ怪しい。
それに対しバージニアから「梅肉エキス、大根シロップ、ドクダミチンキ。柿の葉茶、菩提樹の葉茶、ハトムギ茶」と、スラスラと出てくる。
梅や大根が身近にあるのが前提だけれど、作り方も分かっているものばかり。
「おばあちゃんの知恵袋」と呟いた私は「民間療法とおっしゃいなさいな」と、笑いながら睨まれた。
そんなことを思い出しながら、部屋の一角に設えられたテーブル席に空きをみつけて、ケント伯と向き合う。
「お礼を言われるような覚えは、ございませんが」
この言い方で、喧嘩を売っていると思われたらどうしよう。
「本来ならば、初対面時に言うべきことだ。こちらの勝手な招きに応じてくれたことに感謝し敬意を表する、と」
初めてケント伯の顔を正面から見た気がした。彼は主にバージニアと話していたから。
そして階級差を考えれば、伯爵の気遣いは私にとって分不相応に思える。
「すみません、自分では普段通りのつもりでいましたが私も混乱していたようで、こちらこそ失礼はなかったかと申し訳なく思っておりました」
少し強めの苦情があった時の受付での対応と、似た風にしてみた。
ケント伯の「そんなことはない」とでもいうような表情は、たった数日のうちにこちらへの警戒心が解かれたように感じる。
聖女としての実力をご覧になるまでは「どこのものとも知れない馬の骨」と思っていたのかもしれない。それも当然といえば当然。
「遠征隊は、男ばかりのなかにコール嬢とミナミ嬢が加わる編成となる。任務の円滑な遂行には、おふたりについて知っておくことが不可欠だと考える。できるだけ対話を重ねたいと思うが、いかがだろうか」
堅い。表情も堅いなら、口調も堅い。そしておっしゃる事は正論。
「どういった話題が旅の役に立つのか、私には分かりませんが……」
「どのような事でもいい、会話の端からでも得るものはある。できるだけ毎日時間を作ろう」
実のところ、ケント伯の整った顔立ちと態度からをお人柄の冷たさを感じていた。今の会話で多少の苦手意識はすっかり氷解して「衛兵隊長さんだもの、厳しいくらいでないとね」と思う私がいる。
今ならブレンダン殿下のことが聞けそうだった。




