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お姫様聖女と副隊長は踊る

 聖教会主催の歓迎会は、教会の所有する迎賓館でひらかれた。

生まれながらの貴族のような堂々とした振る舞いのバージニアに、人々の注目が集まる。


 それもそのはず「元華族のお姫様が大地主藤堂様に嫁がれた時には、沿道で町民一同お辞儀して車列をお迎えした」とお年寄りの語り草となっている藤堂櫻様が、バージニアだ。 


 一方の私はといえば、この世界では貴重品となったヘアゴムでひとつ結びにしているいつもの髪型はやめ、メイドさんにお任せして、それらしいアップスタイルにしてもらった。


 バージニアと私のデイドレスは、教会側が用意したもの。

こちらに来てからも着慣れた制服のジャケットを着用していた私は、聖女の侍女に見えているらしい。差し支えはないし実際そんな心もちなので、誤解はそのまま放置している。


 毒霧と泥を清浄化したのは私だと伝われば、また見る目も変わるかもしれない。




 聖女とは「どんな不調も治せる存在」と考える人は多く、バージニアの前には病気相談の列ができた。


 残念ながらバージニアの治癒力は、今のところ毒霧によるものにしか効果がみられない。

だから古傷の痛みをとったり、欠損した指を戻すのは無理な相談だ。



 相談者が途切れたところで、バージニアが振り向いた。


「今日のお話を、皆さんが広めてくれるといいけれど」

「本当にそうですね」 


 「治せません。『今は引き受けられない』ではなく、そもそもの能力がわたくしにはございません」を、相手が納得するまで懇切丁寧に繰り返すのは、なかなか根気がいる。私に期待する人は皆無なので、そこは助かるが。



 バージニアが音楽に誘われたように、演奏する一角で踊っている人々に目を向けた。


「楽しそう。わたくしの得意はチャチャチャとルンバなの。おばあちゃんになってしまったから、ここ何年も踊っていないけれど」


後半は私だけに聞こえるよう声をひそめる。


「クルーズ船に長く乗った時には、サルサを習ったの。センスがあるって先生に誉められたのよ」


 得意げにするお顔が可愛らしい。うちの祖母のいう「チャーミングなひと」だ。



「よろしければ、お相手つかまつりましょうか」


 ヒソヒソ話をする私達に声をかけてくれたのは、今後予定されている「毒霧撲滅遠征隊(仮称)」の副隊長を務めるライリーさん。


 ずっと私の視界に入る位置にいらした彼は「うちの娘はどうか」と幾人もの紳士に言われていたから、親世代に人気がありそうだ。誠実なお人柄で知られるのだろう。


「どうしましょうかしら。わたくし、モダンは自信がないわ」

「私よりお上手ですよ、きっと」


 ライリーさんは、満更でもない様子のバージニアの手をとり、にこやかな笑みを浮かべた。


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