ベッドの上からの実況は私でお伝えします
ケント伯が私を睨む。
「俺を不実な男だと思っているのか」
それはつまり未婚で彼女もいないってことですよね。そんな嫌そうなお顔をしなくても、普通に答えてくれたらいいのに。
キスの合間に質問する。
「いわるゆる『女性経験』は?」
「ない」
「ない!?」
信じられない。
「人体構造は熟知している、後は実践あるのみだ。俺は器用だから上達は早い」
頬に刻まれた笑みに私の背筋がゾクリとする。これは嫌なんじゃなくて、期待もしくは武者震い。
お姫様抱っこのまま、ケント伯はベッドルームの扉を脚で開けて――器用なのは手だけじゃないらしい――私をベッドにおろした。
靴まで脱がせてくれる紳士ぶりだ。あちらの世界では、素足は夫となる人にしか見せないもの。水着と言い張った下着でまるっと脚を見せていた私は、常識外れもいいところだ。
堅物令嬢が聞いて呆れる。
「私に彼がいるかどうか、聞かないの?」
「どうでもいい、別れてもらうから。……いるのか?」
小さく付け加えるのを可愛いと思ってしまう。
「いません」
「なら遠慮はいらないな」
言いながら、ご自分の服をもう脱ぎ始めている。
これは「自分のことは自分で」つまり、私も服は自分で脱いだほうがいいのかと背中のファスナーに手を伸ばしたら、クリンとうつ伏せにされた。
脱がせてくれるらしい。
「ねえ」
顔をマットレスにつけたままで聞く。
「まだ何か? 手順を誤ったらどうする」
――手順って。ケント伯の不満が声からも伝わってきて、逆に私は楽しくなる。だから勢いで聞いてしまおう。
「私のことが、好きですか」
「愛している」
あっけないほど簡単に、欲しい言葉を与えられた。これをまた何年も温めて生きるのだろうか、私。
あ、ファスナーがおりました。そしてその下、背中のホックが外されました。
慣れないことをするなら手探りではなく目視が一番。なるほどなるほど、そうですか。
「『これより始めます』って言わなくていいの?」
「少し黙っていてくれないか。いい加減諦めて抱かせてくれ」
「キスで塞いじゃえば?」
盛大なため息を吐く渋い顔もまた愛しい。だから最後にひとつ。
「お好きなだけ、どうぞ」
私にも余裕がないのが本当のところ。というわけで実況はこれまで。
真面目なケント伯は私の提案通りに、キスで私を黙らせた。




