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許された情熱

 ここまで二時間かけて来た。往復したら四時間だ。ご一緒くださらなくても、タクシーならひとりでも大丈夫なのに。


「ひとりでは帰さない。泊まるか、送られるかだ」


 そこは譲らないらしい。私もいい大人だから、部屋へ誘われることの意味は理解している。

そして冗談にも「いつもこんなことを?」と聞く気はない。


 何より、離れがたいと思う私がいた。

異世界より戻って以前と同じ生活を送ったけれど、ケント伯の「愛している」がずっと忘れられなかった。



 あれから十年経っている。ケント伯の気持が変わっていて、このお誘いが一時の高揚感からくるものだとしても、一晩の夢をみるくらい私の人生のご褒美じゃない? なんて自分をそそのかす。


「一緒にいたい」

酔いに任せて口走った。


 ケント伯が真意を図るように見つめるから、目をそらさない。


「分かっているのか? 『隣に寝る』では済まない」


 それで済まされたら、こっちもがっかりする。私のクスクス笑いを肯定と受け止めたらしい伯が、肘掛けから腕を外した。 


 「この」水野ほのかとしては初体験だけど「前回の」水野ほのかとしては経験済みなので、ガチガチに緊張するってこともないでしょう。



「酒をもらってくる」

ケント伯はそう言って席をたった。







 レストランでわけてもらったワインボトルを片手に持ちもう片手は私の腰にまわしたケント伯に、まとわりつくようにして廊下をゆく。


 また新品で毛足の潰れていない絨毯を、よろめかずに細いヒールで歩くのは難しい。

私の足元がおぼつかない原因は、お酒ではなく絨毯によるものだと強く主張したい。

 


 部屋に入りドアを背中で閉めて、どちらからともなくキスになだれ込んだ。唇に熱が足りないとねだる足元に、何かある。


 つま先で蹴ってみると、ワインボトルだった。きっと定価の五倍くらいは払っているから、もっと丁重に扱うべきでは。


 拾い上げようと屈んだところを、うまい具合にお姫様抱っこにされた。


 友達の結婚式で見た時は、緊張感と危なげがあった。新郎が腰を痛めそうでこっちが心配になったものだ。

私とケント伯くらい体格差がないと、安定しないのね。この姿勢でのキスもまた素敵。


そう言えば。

「ケント伯、彼女は? ご結婚は?」

一応聞いておくか、と思った。


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