再会は田舎町の奇跡として伝説になる?
晦日市南病院はお年寄りの多い地域にある。待合室で静かに順番を待つのも、ほとんどが顔なじみの患者さんだ。
そう言えば藤堂櫻様が救急搬送されたのは、この時期ではなかったか。
なんとなく仕事の手を止めて玄関に目をやると、自動扉の向こうに異質なものを見つけた。
男性だ。扉が低く感じられるほどの高身長、紺のジャケットの下の白シャツは一番上のボタンが外されている。肩に引っ掛けるように持つトートバッグまでもがお洒落なのは、きっとこの方が持つせい。
私が持てばただの袋だ。
注目されているとも知らずに、片手で外したサングラスを胸ポケットにおさめる仕草まできまっていて、田舎町ではこの上なく浮いている。
患者さん……だろうか。とてもお元気そうでどこか悪いようには見えないけれども。
あまりに私が熱心に見つめるので、受付窓口の隣席にいる後輩がつられて玄関に視線を送る。
「なに……カッコ良」
私の感想も左に同じです。
内側の自動扉も通り過ぎ、肩で風を切るような歩き方に目を奪われていると、ぐるりと待合室を見渡した男性の視線が私に止まった。
はっと息をのむ音が聞こえる。
「ミナミ嬢……?」
「――ケント伯」
多少お顔立ちが東洋人寄りになっていても、あなた様は見まごうことなきケント伯。
まさか。信じられない思いで呼吸も忘れそうな私に、受付カウンターごしにケント伯が手を差し伸べた。私も同じようにする。
腕に手を添えて、頬に右左右と頬を寄せる親しい者同士がする挨拶だ。
「どうして、ここに?」
ようやく声を出せた私から尋ねる。
「来週からお世話になるので、副院長に挨拶をしに」
お世話? 副院長? 全く理解できない私に、ケント伯が補足する。
「非常勤で。必要な時にオペの助手に入る」
「助手?」
「胸部外科医だ」
さらりと告げられて、ようやく頭がついていく。
「ケント伯、ドクターなんですか!」
私の驚く様が可笑しかったらしく、男らしい顔から白い歯がこぼれる。
コホンと咳払いが聞こえた。あれ、さっきも聞こえたような。
そちらを見れば、エレベーターホールに副院長が立っていた。
いつから!? 顔から火が出そうになって、まだお互いに腕を取り合っていたと気付く。
離れようとするのに、涼しい顔のケント伯の力が強くて動くに動けない。
「瀬名先生、お知り合いですか」
副院長が、腕からケント伯のお顔に視線を移してくれたのが、せめてもの救い。
「はい、留学をしていた頃の。今日会えるとは思いませんでした」
しれっと応じている。あれは留学と言えるのか。内心疑問に思う私を無視して副院長が頷いた。
「積もる話もあるでしょうが、きりがついたらひとまず私の部屋へお願いします、瀬名先生」
スタスタとエレベーターに向かう副院長について行かなくていいのか、ちらりとケント伯を見上げる。
「今日の仕事終わりは何時? 水野さん」
どうして伯が私の名前を? 答えは受付に置かれた「窓口担当 水野」という札だった。




