これからの殿下と私・3
そうだ。道を歩くのすら手を繋ぐほど心配性の殿下が、一人暮らしに賛成してくれるはずがない。
一人暮らしを強行すれば、きっと上下左右の階、何となればお向かいも裏の家も私を見張る……ではなく、見守る人で固められる気がする。
私の一人暮らしは、多方面に多大なるご迷惑をおかけするのでは。
「殿下は、本当に私と結婚されるおつもりですか」
「どこに疑う余地が?」
疑う余地はない。バージニアがウエディングドレスを頼んだドレスメーカーで聞いた、と教えてくれた。
「アリス、言っていいのかどうか分からないけれど、ブレンダン殿下がもう発注していらしたわ。あなたのウエディングドレス」
それは気が早いと驚いたし、実感のなかった結婚が現実味を帯びた。
「わがままとは重々承知していますが、王宮で暮らすのは私には気が重いのですが……そこ、何ともなりませんか」
言いながら顔を覆ってしまった。これじゃ私がプロポーズしているようなものでは?
しかも、ねだってる。
殿下が椅子から立ち上がる気配がした。それでも顔を隠していると。
「ちょっと、ごめんね」
私を抱えるように立ち上がらせ、椅子にご自分が座り膝に私を乗せる。
「重い! 私重いですよ!」
慌てて腰を浮かせたのに、がっちりと腰をホールドし阻止された。
「羽のように軽い。心地よい重さだ」
そんなわけは、ない。絶対にない。殿下の上に座るなんて、お尻が気になって仕方ない。
「アリス、君のお願いなら何だって叶える。我が家では、結婚する時に離宮を与えられるのが慣例だ。いくつか候補があるから、一緒に見に行って君の気に入った所にしよう」
「ほんと?」
私のせいで無理をなさるのでは、ないか。疑う私に注がれるのは、この上なく優しい眼差し。
「本当。僕だって君とふたりで『甘い生活』を送りたいからね」
「甘い生活……」
その言葉選びはどうなのか。
「いっそコール嬢と同日挙式にしようか」
そうすれば住居問題も解決する。ひとりで納得した殿下によって、挙式の日取りまで決まってしまった。春祭に来たはずなのに、なぜこんな話に。
「お茶しかないから、お茶で乾杯」
首を傾げる私をよそに、殿下は上機嫌で頬を上げた。




