これからの殿下と私・2
バージニアとライリーさんが秋に結婚することになった。
「これからも一緒に暮らしましょうよ。こんなに広いのだし、遠慮は不要よ」
いつも誰かしら逗留しているような家で育ったから慣れている。
そうバージニアは勧めてくれるけれど、どこかでは出るつもりだったのでこれを機会にと考えた。
教会から月々お給金はもらっており、王家からも年金の形で報奨金が出るので生活費に困りはしない。
ただ部屋の探し方を知らない。それでライリーさんに相談すると「殿下にお尋ねになるのが一番では」と助言された。
出掛けた帰りに前触れなく殿下が「元ケント邸」へお立ち寄りになるのは、よくあること。そうなると私が住む場所は限られる。
「秋にバージニアが結婚するんです。一人暮らしを始めようかと」
「一人暮らし? 君が」
そんなに驚かれるようなことだろうか。
「使用人は? まさか使用人なしに?」
「はい」
「無理だ」
即座に返された。確かに水道はあるけれどガスと電気はなく、日本のように暮らそうと思うと、作って食べてお風呂を沸かすだけで一日が終わるかもしれない。食事は買ってきたもので済ませるのが現実的か。
考えを巡らせる私は、困っているように見えたのかもしれない。
「僕の家へおいで、アリス」
「僕の家って王宮ですよね」
ご冗談を。顔の前で手を振ると、その手を両手で取られた。
「君に一人暮らしなんてさせたら、心配でいてもたってもいられない。まだキスしかさせてくれなくて、舌を入れただけで逃げる君だから、手を出すのはもう少し待つつもりでいる。そこは約束するから、住まいに関しては僕に任せて欲しい」
なんだか今妙な事を言いましたよね? 殿下のお声だと良い事のようにきこえますが、いやいやいや。
私の指をゆるゆると殿下が撫でる。
「毎日会おう、アリス。同じ屋敷に住めば約束なしに会える」
いつかはと覚悟しているけれど、まだその時ではないような気がする。だってご尊顔を拝するだけで、こんなにドキドキするのに一緒に暮らすなんて、落ち着く暇がない。
「はい」と言わない私に、殿下がよい笑みを浮かべる。これは悪い笑みの可能性もあり。何を言い出すのかと警戒しながら、待つ。
「君が部屋を探しても、売家も貸家も見つからない」
「私に信用がないから?」
言いながら気がついた。違う、殿下が裏で手を回すからだ。さすがにそれは無いと思いながら、いややりかねないと思い直す。
今は撫でられたくありません。殿下の手を振り切り、憮然としてお茶をぐびぐびと飲む。空になったカップをよけて、次のお茶を置いてくれたのは殿下。
それも一気飲みして、ひとつ息を吐いた。




