人前で「最愛」と言うあなたこそ最強王子・2
「王族でもないのに」
思わぬことに私の声が裏返る。
「ティアラも髪飾りの一種だよ。それに今は、そんなにうるさく言わない」
たしかにちらほらと着用する女性も目に入るけれど、ドレスの感じからして皆さん高位貴族だ。
その手には乗らないと警戒し黙っていると「君が受け取ってくれないと、僕はどうしたらいいの」とでも言いたげな困り顔をなさる。
そんなの後ろにいるお付きの人に預けたら解決する話ですよね。私は思いきり口をへの字にした。
「アリス」
そんなお願い口調で呼ばれては、いつまでもゴネてはいられない。
私の気持ちの変化を読み取るのに長けている殿下は、嬉しそうにティアラを頭にのせた。
横髪にした編み込みが、またいい具合にティアラの端をおさえ、危なげなく落ち着く。
結ってくれたメイドはこの展開をあらかじめ知らされていたんじゃないのか、そう邪推したくもなる。
「うん、これにして良かった。アリスの可憐さが引き立つ」
着用は本当に許されるのかとの疑念が拭えないながらも、どうにか愛想笑いを浮かべた私の頑張りを誰か評価して欲しい。
そんな気持ちを知ってか知らずか、殿下は顎を軽く引くと、そのまま流れるような動作で片膝をついた。
ざわっと音が聞こえた気がするほど、広間の空気が色めき立つ。
固まった私の前で、殿下は左胸に手を添えた。
斜めに見上げる姿勢すら格好が良いなんて反則のような気がする。と頭が勝手に逃避してしまうほど、自分の置かれた状況についていけない。
「アリス、僕の最愛。一生君だけを愛することを、ここに集う人々全員に誓う。どうか結婚を前提に付き合って欲しい」
恥ずかしさしかない。ひとまず逃げ出していいですか。
ごくごく小さな声が続ける。
「アリス。『結婚して』とは言っていない。『付き合って』だから、君は取りあえず『はい』でいいんだよ」
あ、そうですか。やだプロポーズと早とちりしていました私。
「長くなると君が恥ずかしいよ? 『はい』は?」
恥ずかしくなる原因を作った張本人に促されて、「はい」と返すと。
「ありがとう、アリス!」
ブレンダン殿下は広間中に聞こえるような声で言って立ち上がると、勢いよく私を抱きしめる。
わあっと歓声と拍手が起こった。「え」と思う間もなく、唇に何かが触れた。
この上なく驚いて「今のなに?」と殿下を見つめると、煌めく笑みを浮かべて再び唇を掠めるようなキスをされた。
そして、私を片手で抱き空いている片手を上げ辺りを見回す。
「最上の夜だ、ありがとう」
拍手が一段と大きくなった。
待ってまって。よく考えたら、王族が片膝をつくのなんて、プロポーズの時しかない。知らないけれど、たぶん。
聞こえる範囲にいる人はともかく、離れた所にいる人は「殿下がプロポーズした」と理解しての拍手なんじゃ?
「殿下、誤解されましたよ!」
どうにか身体を離して訴える。
「いいんだよ、これで」
耳もとに口を寄せて、
「まだ来る縁談が煩わしいんだ。アリス以外とは結婚しないと、これで誰もが分かっただろう」
離れ際、ちゅとついでのようにキスをしてゆく。
もうどうしていいのか分からない私は、されるがままだった。




