人前で「最愛」と言うあなたこそ最強王子・1
バージニアと私の功績は「未病医学という斬新な考えをもたらしたこと」と公に発表された。
そんな大層なものではなく、実のところバージニアの「おばあちゃんの知恵袋」的なものだ。
「最近は何でも買って済ませていたから、民間療法をずいぶん忘れてしまって」
ご本人は謙遜するが、元より知らない私に比べれば知識は豊富。私はお零れにあずかる状態だ。
先日、私とバージニアは今後王家の庇護を受けると公布された。その流れで王宮にて開かれた夜会に招待を受け、今夜ここにいる。
ブレンダン殿下がドレスを作ってくださるとおっしゃり「何か要望は?」と聞かれたので「リボンが解けたくらいで脱げないドレス」とリクエストした。
笑いを誘うはずが「あの時は本当にごめん」と謝られて、慌てた。
届いたドレスは、ブラウンを基調として淡いピンクベージュを重ねたもの。
バージニアのドレスは、ライリーさんから贈られたプリンセスピンクとでも呼ぶような素敵な色だ。
「さすがブレンダン殿下、アリスに似合うものをご存知ね」
「ライリーさんこそです」
私が言おうと思っていたのに、バージニアに先を越された。
シックで洗練されていると絶賛されると、褒められたのはドレスでも私が何やら気恥かしくなる。
教会絡みの集まりで顔見知りになった方も多く、祝辞を頂戴したりお宅へお誘い頂いたりしていると、不意にざわめきが静まった。
ほどなく、人の向こうから颯爽と現われたのはブレンダン殿下だった。私の初めて見るホワイトタイ姿は、ここにいる誰よりも堂々たるもので、どこからともなく感嘆のため息が聞こえるのも納得のお姿。
「眼福、眼福」
この呟きはバージニア。
ブレンダン殿下が微笑する。
「アリス、楽しんでいる? 思った通りよく似合う」
「ありがとうございます」
このドレスは誰が着ても素敵に見えるんじゃないかしら、とは思っても言わない。
――それより。私はブレンダン殿下の右手に注目した。体側におりた指先に煌めく物を無造作に下げている。
あれは何でしょう。意見を聞こうとしたら、今の今まで隣にいたバージニアがいない。
私の周りにはぽっかりと空間ができていた。
「髪飾り」
「え?」
聞き違いかと、殿下のお顔と右手を交互に見る。
「髪飾りが間に合わなかったから、今夜はこれをつけて。気に入ったら今後も使ってくれていい」
目の高さに上げられたものは、金色に緑色の石が散りばめられた繊細で美しい……
「これって、髪飾りじゃなくてティアラですよね」




