表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/171

世界を魅了する三歳児です

 今日はここまで。ラドクリフ様はブレンダン殿下のお戻りを待たずに席を立たれた。

 黄花藤の時同様、今回も情報量が多かった……と思い返すうちに、誰かが呼びに行ってくれたらしい。


「ラドクリフ嬢は帰ったのか」


戻られたブレンダン殿下が、空席に目をやる。


「彼女は元より僕に興味はなさそうだったけれど、今日あらためて実感したよ」

「ブレンダン殿下を好きにならない女の子がいるんですね」


 学生時代を思い出しても、目がハートじゃない女の子は見当たらない。


「嬉しいことを言ってくれる」


 はい、これ。殿下が窓辺に立てかけたのは、片手に持てる大きさの絵だった。



 立派な額のなかで、天使のように愛らしい男の子が、積み木を片手にこちらを見ている。今にも話しかけてきそうな精緻な絵だ。これは、もしかして。


「会う女性全員をとりこにした伝説の三歳児最強ブレンダンだ。どう? アリス」


 おどけて片目をつぶる殿下。これは自慢していい可愛さだ。


「すごく可愛いです。お部屋に飾りたいくらい」


率直に誉める。


「あげる」

「え?」

「君にあげる。近い将来同じ屋敷に住むのだから、所有者がどちらでも同じことだ」


 なんだか驚くべき発言をサラリとなさった気がする。私がお顔をしげしげと見れば、とても感じの良い微笑が返された。



「殿下のおっしゃった『私にもいいこと』が、この絵だったんですね」


 お返事がない。あれ、違いましたか。そう聞こうとしたところで。


「そう」

肯定された。


「一生大切にします」

「僕も一生大切にする」


 この絵はくださったのに。戸惑う私の手を殿下がすくいあげる。


「生涯かけて、君を。僕の大切な大切なアリス」


 真顔で愛しそうにおっしゃるから、全身が一気に熱くなる。顔は一瞬にして真っ赤になったことだろう。



 これはキスをされる流れだ。経験の浅い私にもわかる。

 でも「この部屋にはおふたり以外どなたもおられませんよ」と壁際から主張する応接メイドの存在を忘れるなんて、私にはできない。

顔を背けて亀のように首を縮めた。


 無粋な態度に呆れただろう殿下は、それでも笑って許してくれた。


「まだ、お預けか」


 ごめんなさいと言うのも妙なものだから、首だけをへこりと動かして謝る。



ラドクリフ様が教えてくれた。


「ブレンダン殿下の前では、ケント伯の『ケ』も出せないと言われているのよ。不快感をお顔に出されるのですって。それが噂に拍車をかけるの」


 それこそ噂の尾ヒレと解釈したけれど……こっそりと殿下の顔色を窺ったのに、目が合う。


 殿下の表情は、保管室で私のお尻の下から本を取り上げた時のお顔と同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ