表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/171

戻ってきたアリス・ウォルター・3

「ごめんなさい」


 どうしてこんな結末になってしまったのか。

地下にいた時は「そうするしかない」と信じていた。なのにこうして夕陽の差す場所へ出ると、選択を間違えたと思えてならない。


 息苦しくて蒸し暑くて。知らず知らずのうちに、視野の狭い考えに陥っていたんじゃないのか。


「どうして謝るの?」

殿下が私の肩に手を置き、そのまま前におろして指を組んだ。


 私が下を向くと、殿下の手の上に涙が落ちてしまう。スンと鼻をすすった。


「『今日は浄化はしない、集会所へ戻る』と言うケント伯を説得したのは私なんです」


 続けたい「ここにいるのは私ではなくケント伯のはずでした」が、声にならない。



「ケントは自分で判断する男だ。いくら君が懸命に訴えても納得しなければ、同意はしない。君の意見を取り入れたか、最初からそうするつもりだったか。どちらにしろ君に責任はないんだよ」


私の思考がついてゆけるよう、丁寧に話してくれる。


「だから、泣かなくていい。――泣きたいのなら泣いてもいい。『泣けばすむと思って』なんて、僕は言わないから」


 殿下が昔のおしゃべりを引き合いに出す。取るに足らない私の言葉を覚えていてくださる、その優しさがまた泣かせると知らないのか。


 私は頬の隣を通る殿下の腕に顔を押し当てて泣いた。えぐっと喉から変な声が出る。



「鐘楼で会った日、君はこの件が片付いたら元の世界へ戻ると言っていた。君がアリスだと分かって、何としてでも帰さないつもりでいたけれど、僕のいない所で帰られては成す術がない。ケントが君をここへ残してくれた理由は様々あるだろうが、彼の友情に感謝する」


 突然の「学友」に警戒する気持ちはあったとしても、十年も経てば友情は本物になっていたのだ。殿下の厳かな口調が弔辞を思い起こさせ、また涙が出る。



「逆効果だったか。僕がいなくなっても、君はそんな風に泣いてくれるのかな」


殿下は軽く言ったのだろうが、私に衝撃がはしる。


「――行かないで」

がっちりと殿下の手首を握って、逃すものかとする。

「どこへも行かないで……ください」


「うわあん」と「ひええ」の中間の声が出る。殿下が焦った様子で後ろから私の頭をぎゅっとする。


「ああ、ごめん。僕が悪かった。どこへも行かない、行く時は必ず君も連れて行くから。そんなに泣かないで」


 これは困ったな、と呟くのが聞こえる。

本当に連れて行ってくれるのだろうか。ケント伯は私を置いていったのに。置いていかれる立場がこんなに切ないなんて、知らなかった。



 なので殿下に約束する。

「私も置いていきません」


 殿下が呼吸を整えるかのように間を取ってから、囁く。


「帰ってきてくれて、ありがとう。アリス」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ