異世界への適応適性、見極めは幼稚園で・5
ブレンダンの顔から笑みが消えた。
「なぜこのような話を?」
「ご所望になったのは、ブレンダン殿下ですのに」
これは意外なことをおっしゃる、お忘れですか。バージニアは軽く顎をひいた。
「話したくないと思えば、実のない話をつづけることなど、あなたには訳もないだろう?」
バージニアは顎をひいたまま。その上目遣いは、可愛らしい類のものには見えない。
「ケントが異世界人であると証言して、その後の私とケントの関係に差し障りがあるとは――」
話しながら顔色が変わる。
「この世界から毒沼が消失し元に戻った時、ケントはどうなる?」
「先ほども申し上げましたように」
聞き取りやすいようにという配慮であるのか、常よりゆっくりとバージニアが話す。
「私は笑里さんを見届けに参ったのです。殿下のご質問は私の知る範囲のことでは、ございません」
立ち上がるのにあわせて、ブレンダンの椅子が大きな音を立てた。身を翻し扉に駆け寄り、廊下へと呼びかける。
「出掛ける! すぐに馬車を!」
応じる使用人の声を背にして、ブレンダンは、悠々と座るバージニアに険しい顔を向けた。
「ケントは今、アリスといる」
「存じておりますわ、殿下。正確にはまだミナミ・ミソカイチです」
「アリスがいなくなるようなことがあれば、あなたを許さない。相応の覚悟をしておけ」
紅茶の最後ひと口を飲み下して、柔らかな笑みで応じるバージニアには怯むところがない。
「私はなにもしておりませんが、仰せのとおりに、ブレンダン殿下」
外から車輪の音が聞こえる。
「共に来てもらおう」
立ち上がるよう促すブレンダンの眼差しは冷ややかだ。
無言のまま応じるバージニアは「せっかちですね」もしくは「慌ただしいことでございますね」とでもいった風情。
ふと思いついたように問う。
「あなたが今聞かせた話はすべて真実か?」
すぐに自ら「愚問だな」と打ち消したブレンダンは、バージニアを先に廊下へと出すと自分も続き、扉を閉めた。




