異世界への適応適性、見極めは幼稚園で・3
ブレンダンが浅く頷いたのは「聞くだけ聞こうか」に見える。
「ミナミが共に渡って来たのが不思議でしたの」
「不思議、とは?」
「笑里さんのいる世界に私が様子を見に来る。どうしてミナミが一緒に? 私の寿命がつきる瞬間に同じ場所にいたというのなら、他にも人はおりました。そして、殿下はミナミを『アリス』として受けいれ、別扱いをなさるまでがどうにもお早い」
紅茶碗が皿に当たりカチリと音を立てた。
「それで、あなたの見立ては?」
「なにも。お尋ねしてみようと思っただけですわ」
バージニアも優雅な手つきで紅茶碗を戻す。
「一学年下にいた子爵家の息女がアリス・ウォルターだ。『大人の言いつけをよく聞き、女の子にありがちな気分の波もない』と教師の信頼も厚かった。名と顔の一致もしていなかったけれど、ちょっとした切っ掛けで言葉を交わすようになった」
ブレンダンの頬が緩む。
「抑制のきいた態度が好ましいというか、ひとりで頭の中を忙しそうにしているのが見えて、面白いというか。話すのは楽しく、私にとっては気楽な相手だった」
「アリスさんの身分が低いから」
指摘する。
「それは……認める。後ろに親の顔がちらつかないのは、気安い。あなたならお分かりになるだろうが」
「ええ、わかりますわ」
「王族だったのかな」
「先祖は一国の主でしたが、親の代には国も城もなくなっておりました」
ブレンダンの表情の変化を見てとって、バージニアが「そうではない」と告げる。
「国も城も個人で所有しない時代が来ましたの。内心穏やかではなかったことでしょうけれど、私の実家も嫁ぎ先の先祖も無血で城を明け渡しております」
「名君だね」
「さあ、どうでしょうか。評価は国により時代により変化するものですわ」
バージニアが曖昧にかわす。
「少なくとも民を飢えさせてはいない」
「ありがとう存じます。それで、アリスさんの続きを」
ああ、とブレンダンが瞬きした。
「トラバス嬢が田舎で頭角を現したと知らせが届いた。異世界より遣わされたとは誰も考えず、当人も知らなかったのではないかと思う。少なくとも編入時には」
「転生者には、使命を知らず思い出さないままに果たす者もおりますから。私も経験があります」
「もう少し、控えめな者を推薦してくれるとよかったのだが。アリスがずいぶん苦労した」
迷惑だった事を隠さないブレンダンに、バージニアは日本式に頭を下げた。




