異世界への適応適性、見極めは幼稚園で・1
バージニアとティーテーブルに着くブレンダンの些細な手の動きで、目立たない位置に控えていた使用人が静かに退出した。
しばらく後、ブレンダンが微笑した。
「せっかくふたりなのだから、私の知らない話など聞かせてもらえると嬉しい」
バージニアの浮かべた笑みもブレンダンと同質のもの。
「なんでもご存知でいらっしゃいましょうに、私などが殿下のお気に召すようなお話ができるとも思えませんけれど」
「コール嬢の身の上話でも、アリスと日頃話すことでも。どちらもおおいに興味をひかれる」
「初耳であるなら何でも」と言い添えられ、バージニアが口の端を僅かに上げた。
「では、そのどちらでもないお話をいたしましょう。先にお断りをひとつ、全てが真実とは限りません事をお含みおきくださいね。私が創作したお話であるとしても、殿下には確かめようがございませんもの。真偽のほどは重要ではありませんわね」
許可を得るというより通告。聞きようによっては失礼な発言を、ブレンダンは紅茶碗を軽く上げることで承諾とした。
「私が世界を渡るのは、今回が初めてのことではありません。渡る時には十七歳バージニア・コールの姿になるのを常としております。聖女ではなく一般人として生を受けた島国では、長年幼児教育に携わっておりました。こちらへ伺う前のことです」
ブレンダンが背もたれを使い、深く腰掛ける。
「『子供の長所を伸ばす教育』をモットーに、個々の適性を見極めようと心掛けておりました。そこに、ひとり目を引くお子さんがいましたの、笑里さんというお名前です」
ブレンダンの開きかけた目がすぐに戻ったのは、「真実とは限らない」の前置きが頭にあったせいか。
言葉を切り小首を傾げるバージニアは「ご興味ございます? この話題」と問うようだ。
「聞こう」
「笑里さんのお家には多少問題がございました。恵まれているとは言えません。親から愛情が得られない分、他者に求める気持ちが強いように見えました。人懐っこい性格、物怖じしない積極性。どちらも皆が持つ性質というわけではありません」
肯定も否定もしない相手に、バージニアは続けて話す。
「なにより『この子には見どころがある、手を貸してあげたい』と大人に思わせる煌めきがありました」
懐かしげに目が細くなる。
「慣れない世界へ渡った場合、大切なのは本人の資質だと思っております。私は『オールラウンダー』と称されるタイプ。彼女は全く違うタイプのプロに育つのではないか、そう期待したのが彼女を推薦した理由です」




