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共犯者の口づけ・2

 明日一度では浄化しきれないと、ケント伯にも伝わったようだ。


「しかし……」


言い淀まれても、説得できた手応えを感じる。


「私の体調を気にしてくださるなら、大丈夫です。でもケント伯は家の外でお待ちください。バージニアがいないので」

「――私の変化はそういう類ではないように思う」


 ケント伯は馬車の小窓をあけ、行き先を村の近くへ変えるよう指示した。








 途中集会所へと寄ってもらい部屋から荷物をとってきた。ケント伯の視線が手荷物に注がれる。


「来た時に身につけていたものです。持っていたら力が増すかと思いまして」


 浄化をしてみて効果が薄ければ、身を浸すつもりでいる。その時はこの荷物も一緒だ。



「おかしいと思わないか」


 馬車を降り並んで歩きならがらケント伯が口にした。

なんのことだろう。


「ライリーは、家に入るなり気分不良に陥った。だが私はミナミ嬢と同じだけ持ちこたえた」


 足を止めたケント伯につられて立ち止まった私の表情を読むような眼差で。

「俺も、異世界人なのではないか」



 とうとうご自身で解答を導き出した、私の今の感情は「出してしまった」に近い。どう答えるべきかと思う私の表情筋は、きっと不自然なところで動きをとめている。瞬きを数度した頃。


「返事のないのが答えだな。ミナミ嬢は、何を知っている?」


 ケント伯に動揺した様子はない。遠征に出てから時折見せる物思いに耽る横顔を思い出して、私の胸が詰まる。詰まるのは言葉もだ。



それでも真摯な問いに向き合わねばならない。


「なにも。確かなことは何も。高熱を出された夜に、この世界のものとは思えない知識を持った会話を、ごく普通に私としました。それで『あれ?』と思ったのです」


拙い話を急かすでもなく待ってくれる。


「自分に疑いを持ち始めると、逆にミナミ嬢にも不可解な点がいくつもあるように思えてきた」



――この流れは。緊張する私を、清々しいほど真っ直ぐな瞳が捉える。


「アリス・ウォルターという名は、ブレンダン殿下の思いつきだろうか。殿下のミナミ嬢に対する親しみは、これまでの殿下を知る俺としては信じ難いものだ」

「……はい」

「返事は一言でかまわない。ミナミ嬢は、かつてこの国でアリス・ウォルターと呼ばれて過ごした日々があったのだな」



 確信に満ちた口調は、求められた一言の返事も不要に思える。けれど伯の視線が私を促す。


「はい」

――求められた一言に思いをこめた。


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