共犯者の口づけ・1
馬車に乗り込むなり、ケント伯に話しかけた。
「連れて出てくださり、ありがとうございます」
ちなみにライリーさんは、単騎で一目散に集会所へと向かっている。
「バージニア嬢のご不便は早く解消いたしませんと」
とおっしゃるのだから、かいがいしい。共に暮らすにはぴったりなお相手だと思う。
「移動が体の負担にならないか」
悪路を気にしてくれるケント伯の細やかさよ。
「このくらいの距離なら、酔う前に着きます。明日の朝に浄化するとして――」
「ちょっと待て。明日は昼からと言ったはずだが」
話の途中でケント伯に遮られた。これは異なことをおっしゃる。
「ん? 午前に一発浄化の時間をとってくださるおつもりで、殿下のご来訪をお昼になさったんですよね」
「何を言う。ミナミ嬢を休ませるために決まっている」
あれは、建前ではなく本当のことだったんだ。意外に思ったのが表に出たらしく、ケント伯が苦い顔をする。
「自分では誤魔化しているつもりかもしれないが、声も掠れている。どうせ、埃を吸ったせいだなどと言い訳をするのだろうが」
まあ、なんと皮肉っぽい。
「私の体調なら問題ありません。自分のことは自分が一番わかります。それより、明日の朝一度浄化したくらいでは、あの毒沼は乾かない。あの状態でブレンダン殿下に視察していただくわけには参りません」
表情の苦味が増したのは、私の言う事が正しいから。
「まだ私には余裕があります、伯」
凛々しい眉が上がった。何が言いたいんだ? というケント伯からの圧をはねのける強さで、言葉を重ねる。
「私を村の入り口で落としてください。今日のうちにもう一度浄化してきます」
返事がない。無言のうちに私の案に反対していると理解した。それでも、だ。
「明日の朝行くことは外せません、絶対です。そして明日一気に方を付けるよりは、今日これからと明日の二度に分けた方が楽なのです」
まだ無言。もうひと押し。
「ケント伯も一度では沼の消失は望めないと感じておられるはず。そしてブレンダン殿下に『地下におりないで』と言っても、聞き入れてくださらないのも、お分かりなのでしょう」
「長い付き合いでもないのに、ミナミ嬢は殿下の性格をよく知っているようだ」
あらまた嫌味。言いたいことは言った。あとはケント伯が折れる……ではなく決断するのを待つのみだ。
下と上、私と殿下の板挟みとなったケント伯。浄化するのが男性部下ならばこれほど躊躇しないはず。
私にしてみれば仕事に「女性だから」との配慮は不要であるが、説明してもきっと伯は納得しない。




