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ブレンダン殿下到着・2

 湯を使い埃と臭いを落として一息ついたところで、部屋に温かい飲み物が届けられた。ほんのりと優しい香りで蜂蜜入りのお茶だとわかる。


 バージニアが気を回して? と思っていると、持ってきてくれた調理担当の隊員が「隊長のお申しつけです」と付け加えた。


 一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、ケント伯の細やかな心遣いに感じ入ることが増える。

 してもらうばかりで、私は何も返していない。せめて任された仕事だけは完全にこなす、と決意をあらたにした。








 「ブレンダン殿下の宿泊所には集会所ではなく領主代行館を」とは、ケント伯の判断。


 王都を出てからすっかり忘れていたお茶の時間というものを領主代行館で久しぶりに過ごす。

その席でケント伯が考えを伝えると、ブレンダン殿下はあからさまに難色を示した。


「皆が前線にいるのに、私だけ後方で安穏と見物するつもりはない」


 それでも譲らないケント伯に「ならば、令嬢方だけでもこちらに泊まるべきだ」とおっしゃる。


 それは深夜徘徊癖のある私としては困ったご提案。思わず掬い上げるようにケント伯を見れば「心配しなくていい」というように、横目で励まされた。


「明日は早い時間より浄化を行う予定にしております。集会所から向かう方が、両嬢の負担が少ないかと存じます」

「それならば、私も同行しよう」


 毒に耐性のある私とバージニア、「おそらく」耐性のあるケント伯はいいとして、ライリーさんの様子を見た後では、殿下の同行はとてもお勧めできない。


「毒霧の影響が甚大で、御身の安全が保証出来かねます。何とぞご理解賜りたく存じます」



 言い切った伯に、殿下は無言のまま温かみのない視線を投げた。なんだか……怖い。


 私が息をひそめて成り行きを見守っていることに殿下が気がついたらしく、突然柔らかな表情をこちらへ向けてくださる。


「良かった、顔色は戻ったようだ。君がお菓子をつまむと安心するのはどうした理由だろうね。いくらでもどうぞ」


 急に優しく取り繕っても、さっきの眼差しは目に焼き付きました殿下。

私だけに優しい人より、誰にも優しい人の方が安心できます。


 などと言う代わりに、焼き菓子をまたひとつお皿にとれば、この上なく柔和に目尻が下がった。

――あの凍えるような視線は気のせいだったのかもしれない。いえ、見間違いなどではないですが。



 それまで一切口を挟まなかったバージニアがおっとりと切り出した。


「殿下がこれほど勧めてくださるのですもの、私だけでもこちらに泊めていただきましょうかしら。私の力は『後方支援』で浄化には役立ちませんし。ミナミ達がひと仕事終えた頃着くように集会所へゆけば、先の見通しも立ちますでしょ」


 微笑みながらの提案は、妥協点はこの辺りだと示すものだった。


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