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ブレンダン殿下到着・1

 ヨウ素の入ったうがい薬が欲しい。そう思いながら集会所へ戻ると、目立つ場所に華美ではないものの重厚な造りの馬車が停まっていた。ひいている馬は見慣れた馬よりひと回り体格がいい。

私達が村へ行っている間にブレンダン殿下が到着していた。


物音で察したらしく外まで迎えに出てくださる。


「活躍は聞いている。献身的な仕事ぶりに感謝する」

「身に余るお言葉、恐れ入りましてございます」


 ブレンダン殿下の労いにケント伯が丁寧な礼をとる。これを続けるなら言葉を知らない私は会話に入れないと、やり取りを見守る私の前で、殿下が不思議そうにする。


「ケント、埃まみれな上にカビ臭くはないか?」


 いきなりいつもの口調。殿下はケントと名指ししたけれど、行動を共にしていた私だって同じこと。確かに地下は湿度が高く嫌な臭いがしていた。鼻が慣れてしまったのか自覚はないが、短時間でも服に臭いが染みついてしまったらしい。


 そうと分かればさっさと洗い流したいし、着替えたい。


「棄てられた村を見て回っておりました。長らく無人の家ばかりで荒れ果てておりまして」


 ケント伯の説明で殿下が納得した表情になる。

私も臭うに違いないと恐れおののいていると、バージニアが口を挟んだ。


「身なりを整えてお迎えするのが本来でございますのに、不調法で申し訳なく存じます。御前を失礼して着替えてきても宜しいでしょうか」


 さすがバージニアはいい事を言う。殿下が鷹揚に頷いた。


「こちらの都合で着いたのだから、気にせずにいて欲しい。私は領主代行と先に会ってこよう。お茶の時間に間に合うよう、揃って代行館へ来てくれないか」



 領主代行の館はそれほど離れておらず、お茶の時間までには充分な間がある。

湯を使い一休みさせてくれようというご配慮だ。ありがたい。



「少し顔色が悪いように見えるね」


 一呼吸おいてブレンダン殿下がじっと私を見る。殿下の前で盛大に咳はできないと堪えているのが理由でも。


「たぶん汚れているだけです」


小さな声で言えば、笑みが返された。


「女の子の好むお菓子も積んできた。着替えておいで、お茶にしよう」 


 殿下の態度がミナミ向けではなくアリス向けになっていて、他から不思議に思われないかとドキドキしてしまう。


 ああ、今度は心臓に悪い。私は咳をこらえつつ胸をおさえた。


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