火を吐く竜に魔神や魔王
バージニアとふたり、今日知ったことを報告しあう。
まずこの国のお困り事は「原因不明の毒霧」だった。
気がついたのは五年前でも、実際はもう少し前から発生していたのではないか、というのが聖教会の見立てだった。
毒霧の元は毒沼。沼があるから毒霧が湧くのではなく、毒霧が発生した場所が湿地になるらしい。
「それで、その毒霧にはどんな影響が?」
バージニアの部屋で私は身を乗り出した。
「吸う量にもよるそうですけれど、獣は攻撃的に、人は排他的になり不安感が強く恨みっぽくなると聞きました。このあたりは個人差があるらしく、私が聞く限り『負の感情』が強くなるように思われました」
「獣にまで影響が? 私達より猟銃を持ったハンターを呼んだほうが良かったかも」
なかば本気で言い「厄介ですね」と続けた。
肌がただれるとか紫斑が出るというなら、外見で知れる。精神に作用するのは他人に分かりづらいから、気づくのが遅れもしただろう。
「その毒沼が国中に点在していたら、難しいのでは?」
「まだ限定的らしいのよ。発生は王家所有の土地に限られるそうなの」
それは……なるほどお助け異世界人を呼びそうな案件だと思う私に、バージニアが告げる。
「発生地の住民にも緘口令を敷いて、機密扱いだそうよ」
私がアリスだった頃、王家に不満を持つ人々の存在には気がつかなかった。どういう訳か私が思い出せるのはおよそ十六歳の頃までだから、知る世間が狭い。そして大人の世界はよく知らなかった。
「どうしたら、その霧は晴れるのでしょう」
「そうねえ、まずは見てみませんことには。霧相手は、わたくしも初めて」
「今までは?」
おっとりと微笑むバージニアに、好奇心丸出しで聞いてみた。
「覚えているのは、火を吐く竜、合成獣、魔神、魔王……、少なくとも形はありましたわね」
それは勝手が違う。大きさも想像がつかない竜が鯨大だと仮定して、どのように退治したのだろうか。
山程ある聞きたいことは、ひとまず飲み込んだ。
「お聞きする限り、毒霧のほうがマシな気がします」
感想を述べる。
私からは、街の説明をし「聖教会側に試されているようだ」と付け加えた。
明日は、毒沼から決死の覚悟で泥を採取した人から話を聞く事が主で、歓迎会のドレスの試着も予定されている。
今日はここまでと挨拶を交わし隣の部屋へ戻りながら、私は今日の外出を思い返していた。
図書館より、行き帰りの道中、ライリーさんとの会話こそ有意義だった。
ライリーさんから聞いた王家は私の知るもの。王位継承順位一位はダニエル・グランヴィル殿下、そして二位はブレンダン・グランヴィル殿下だった。




