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寝台を共にする相手・2

「なぜ寝ない」

「眠くないから」


 ふうん、と声にしない返事が返り「何か温かいものでも飲むか」と聞かれた。


「いいえ」


 このお世話焼きさんめ、顔のよい大男なのに気が利くなんて、モテてモテて困ってしまうぞ、と内心で毒づく。


 赤ちゃんでもないのに人肌の温かみで眠くなるのは、この世界に来なければ知らなかった私の癖だ。


「安心して眠くなってしまうので、離れてください」

「寝ればいいだろう。『安心して』と言われるのは、男女の仲としては微妙だが」


おかしな事をおっしゃる。


「だってケント伯、そんなそぶりもないですし」

「ミナミ嬢にその気があるなら。とは言えないな、ブレンダン殿下のお心を思えば」


 淡々と、とても淡々としている。私を抱えたままだけど。


「ミナミ嬢は、明日から殿下と寝台を共にするのか」


いきなり何を。

「人聞きの悪い。せめて分け合うとでも言ってください」

抗議してから思いつく。


「殿下は異性とふたりきりでお休みになったりなさいません」

人目のあるところでは。だから、

「ケント伯のお家にお泊りになった時のように、みんなで寝るのでは?」



 それはそれで問題がある。遠征に来てから始まった私の深夜徘徊癖を、どう誤魔化せばいいのだろう。イビキと同じくあまり人に知られたくはない。


「夜中に動き出したら、どうしよう」


私の悩みにケント伯が呼応した。

「そういうことか。それで、今夜も頑張って起きているのだな。ミナミ嬢が寝てくれないと、私も眠れないのだが? 夜中に起きる事を案じているなら、なだめるコツを掴んだから心配は無用だ」


 コツ? 聞きたいような聞きたくないような……

表情から何か読み取れるかもしれない。私はゴソゴソと向きをかえ、ケント伯と向い合わせになった。



 こんなに人と寝台を共有するなんて、付き合っている彼がいた頃にもなかったことだ。

その時は「人と寝るのは疲れるから、ひとりで寝たい」と心から思っていたし、正直「泊まらなくても帰ったら?」と言いたい日もあった。


 そういう身勝手さが透けて見えたのか別れはさっぱりしたものだった。彼も私も恋愛感情が薄いのだと思っていたけれど、薄いのは私だけだったのかもしれない。どちらにしても、今さらだ。 



「心配するな。俺がいる」


 まるでヒーローのような発言を笑いたいのに、何もかも引き受けようとするケント伯の眼差しに安堵する。お言葉に甘えてしまうこの感情は、なに。


「おやすみなさい、伯」

「ああ、おやすみ」


明日はブレンダン殿下がお着きになる。


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