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この傷は呪いでしょうか・2

「何をしている!!」


 激しい憤りの伝わる声と同時に、私の手にあった小さな(はさみ)が奪われた。


 鋏には少しばかり血がついている。そして鏡にはバツの悪そうな私の顔が映っていた。

首からはタラタラと血が滴り、服の汚れ防止に衿に掛けていた布に染みを作っていく。



 顔を険しくするケント伯に私は心をつくして説明した。


「傷の奥に固まった部分があって、このままシコリとなって残ると嫌だなと思いました。なのでカサブタを剥いで押し出そうとしていたんです」


 なんだそうだったのか、驚かすなよハハハハハ。と言って欲しいのに、伯の唇がさらに不機嫌な形に歪んだだけだった。


「驚かせてすみません」

軽く頭を下げてみせる。


「首に鋏」


 いや、ノックも無しに開けるからでしょう。ノックをしてくれたら鋏はおろしましたから、普通に私と会えましたよね。首からは血が垂れていますが、それは大目に見てくだされば。


 なんて真顔で返せば、不機嫌に拍車がかかるのは絶対。


「ごめんなさい」

ここは謝罪の一手だ。



 威圧するケント伯に「申し訳無さに身の置き所もございません」という態度を示す私。鋏じゃなくて爪で剥せばよかった。シコリ部分まで掘るつもりで深くグリグリしたくて、鋏にしたのだったが。



 ケント伯はしばらく無言で睨んでいたけれど、同意を求めるように顎をしゃくり、肩にのせた布で血に汚れた首筋を押さえた。血は乾くのが早い、拭いたくらいではきれいにはならない。


 身を屈めて顔を近づけると「少し触れてもいいか」と聞かれた。


「どうぞ」

「痛かったら言ってくれ」


 観察した上で触れる慎重な手つきがくすぐったい。傷の周辺を押して確かめ「たしかに芯がある」と診断する。


だからそう言ってる。

「押し出せそうでしょう? ちょっと鋏の先でグリグリしてから」


 言った瞬間、すごい目つきで威圧された。私の体だから私の好きにしていいと思うのに。あ、あれか、男性の方が痛みに弱い説がある。聞くだけで痛いのかもしれない。


 これはやはりケント伯のいない時を見計らって再チャレンジするしかない。



「触れないほうがいい。夏は化膿しやすい」

「もうしません」


私の殊勝な態度での誓いは、信頼性に欠けたらしい。


「今後ミナミ嬢をひとりには、絶対にしない」


 言い放たれたそのセリフが似合うのはこの場面じゃないです。という指摘は……できなかった。


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