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始まりの地

 雨も上がり、ふたつほど毒沼を浄化する。ブレンダン殿下は明後日合流するという知らせが入った。


 猟師の増員でずいぶん効率がよくなり、殿下にお出ましいただかなくとも大丈夫と言いたいところだけれど、すでに王都をたっている。連絡手段の限られるこの世界では、急報は難しい。



 バージニアのいる集会所へつき、久しぶりの再会をした。


「雨がひどかったわね。本隊はトラブルなく?」

「狩猟用の別荘に泊まれたので。バージニアは?」

「雨が降る前に、近くの領主代行の館に着けたの」


 それは何よりでした、それよりお話ししたいことが、とバージニアを人気のない場所へと誘導し「ケント伯は現代人です」と打ち明けた。



「考えなかっただけで、あり得ることでしょうね」


あまりにあっさりと受け入れる態度に、拍子抜けする。


「驚かない?」

「何カ国も渡っておりますでしょ、大抵の不思議には驚きませんわよ。エミリーさんがミナミ……その時はアリスね、を異世界へ飛ばすのが想定外の暴挙であったとしたら、創造主が『補正』をお考えになりどなたかを送り込んだとしても、不思議はないわ」


私と違い、バージニアは創造主を直属の上司のように語る。


「必要なのは、例えばエミリーさんの暴走を制御するような方。教会が自前の衛兵隊を持たない世界にケント家が出現したという事も考えられる。エミリーさんの力で世界を動かしたと言われるより、彼女の行動を切っ掛けに創造主が手を打ったと考える方が、わたくしには自然よ」


私にはない発想だった。


「それで、ケント伯には『あなたは異世界から来ている』とお伝えしたの?」

「言ってない」


意外そうな顔をされた。


「見てわかる証拠がない。それに落ち着いて考えたら、知ってどうなるものでもないと思ったの。ブレンダン殿下が何もおっしゃらずに友人としておつき合いされているのに、余計な事はしない方がいいかと」


考え直したのだと話せば。


「それでいいんじゃないかしら」


バージニアに肯定されて、やはりこれで良かったのだと安心した。



「毒の患者さんは、どうですか?」

「この地域の方は長い時間をかけて蝕まれたせいかしら、すぐに全快という訳にはいかないの。ある程度回復したら後は日にち薬かもしれない」


バージニアの表情に疲れがさす。


「ここが、始まりの地なのかもしれません」

ふと口をついてでた。


「ええ、そうね。そして私達の遠征の最終地でもある」


私達は黙して沈む夕陽を眺めた。


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