隊長は口移しをご所望です・1
毒沼にも慣れ、霧を吸って体調を悪くする隊員はほぼいなくなった。効率を考えると、コール嬢は別働隊として毒に侵された村人を助けた方がいいのではないか。
ケント伯の提案に、私達も賛成した。ライリーさんとバージニアは少数の精鋭と共に、先に村へと。癒やす力のない私は、人ではなく沼担当として、今日も「強火」で一気に沼を乾燥させている。
「ミナミ嬢、この後雨になる。地元の民によれば二日続くそうだ」
足早にいらしたケント伯は、普段より精気に欠ける感じを受ける。
最新素材のテントでも雨中泊は快適とは思えない。それより劣るこの国のテントだ、ひどく降らないといいけれど。私が空を睨んでもなんの効果もなさそうだった。
「ルートを変更して今日は狩猟小屋へ泊まろうと思う。森番小屋とあわせれば総員屋内で過ごせるはずだ」
「大丈夫ですか、日程は」
「差し支えない。予定より早く進んでいる。その分、負担をかけているが」
労ってくれる。そのために来ているのだから、当たり前。
それより、私が夜中にご迷惑をおかけするせいでケント伯が疲労をつのらせているのではないかと、それが気掛かり。
謝ろうとする私を遮り「先を急ごう」とケント伯は踵を返した。
「ご無理ばかりなさる」
聞こえないと思ったのに、こちらを向かないままで片手が上がる。
「お互いさまだろう」
土砂降りに馬車は行く手を阻まれた。ぬかるみにはまる度に「降りなくていい」と言われても、せめて私の体重分なりとも軽い方がいいだろうと外へ出た。
ぐっしょりと濡れた体で座席まで濡らしてしまったから、余計なことをしたかもしれない。
馬も人も半日濡れながら、それでも日が落ちる前に狩猟小屋へ着いた。
小屋と聞いていたのに、大きい。たしかに山荘風の作りではあるが、ベッドルームが八室もあり他に使用人が泊まる大部屋もある。
これは小屋とは言わないと思うけれど、王家の持ち物と聞けば納得だ。
「ミナミ嬢、すぐに湯を用意する。温まってくれ」
「伯は?」
私より、よほどケント伯の方が濡れている。今もそこかしこから水がしたたっている。
「一通り指示を出したらゆく」
「すぐに、すぐですよ」
「珍しい」
そんな感想を残して隊員の元へ戻るケント伯に、私はひとつの確信があった。




